6Gで人間拡張が加速する ドコモ、産総研が揺るがす“人間”の定義

6Gの特徴の1つである「超低遅延」は、人間の反応速度を超える。この通信性能と好相性なのが「人間拡張技術」だ。ドコモは新しいコミュニケーションの創造、産総研は人間拡張の産業応用を進めている。

近年「人間拡張(ヒューマンオーグメンテーション)」の研究開発が加速している。

人間拡張の定義はまだ明確に定まっていないが、広義にはテクノロジーによって人間の身体能力や機能を向上・補完し、存在を拡張させるような技術を指す。人間拡張の第一人者である東京大学 暦本純一教授は、人間拡張には大きく「身体の拡張」「存在の拡張」「感覚の拡張」「認知の拡張」の4つの方向性があるとしている。

これまでも補聴器や義手義足から、物理的な距離を超えるテレワークまで人間は様々な能力を拡張・補完してきた。しかしなぜ今改めて、人間拡張が注目を集めているのか。それはテクノロジーの進化によって、人間の能力拡張がこれまでの「人間」の定義や常識を揺るがすレベルにまで到達しようとしているからだ。6G時代に向け、動き出している「人間拡張」について見ていこう。

ドコモと6Gと人間拡張ドコモは6Gのユースケースの1つに「人間拡張」を掲げ、研究開発を進めている。

人間拡張に着手した理由について、NTTドコモ 6G-IOWN推進部 工学博士の石川博規氏はこう話す。

「5Gまでの提供価値は、遠隔医療や遠隔操作、自動運転のような『効率化』が主だった。今後も効率化や利便性の追求は続いていくが、一方で6G時代に、人々がより幸せに楽しく生きられる、ウェルビーイング的な価値を提供するサービスがあってもいいと考えた」

NTTドコモ 6G-IOWN推進部 工学博士 石川博規氏
NTTドコモ 6G-IOWN推進部 工学博士 石川博規氏

ウェルビーイングの実現に向け、6Gで何ができるかを精査していくうち、着目したのが6Gの特徴の1つである「超低遅延」だった。

ドコモのホワイトペーパー「5Gの高度化と6G 4.0版」によれば、6GではEnd-to -Endの遅延が常時1ms以下程度の安定した通信が目指されている。一方、人間の神経の反応速度(脳で考えた司令が身体に反映されるまで)は約20msだ。つまり6Gの遅延は人間の反応速度を超えているのだ。

「今までは自分の体しか自由にできなかったが、人間拡張という技術と6Gを組み合わせると、自分の手を動かすのと同じようにネットワークの先にあるモノが動かせるようになる。さらに、動作や感覚を伝達・共有することは、ドコモの事業のベースである“コミュニケーション”の新しい形を創造することだと考えた」(石川氏)

そしてドコモは今年1月、人間拡張基盤を発表した。これは、動作をセンシングするデバイスで取得したデータを、動作を再現するデバイスを装着した人やロボットにリアルタイムに伝送する時に、送信側と受信側の体格差などを吸収・調整して変換してくれるプラットフォームだ。デバイス開発者向けに、人間拡張基盤に接続するためのSDKも提供しており、ベンダーが違っても様々なデバイスが相互に接続できる(図表1)。

 

図表1 人間拡張基盤のシステム構成
図表1 人間拡張基盤のシステム構成

人間拡張基盤は、ドコモの展示会「docomo Open House’22」や、ピアニストの演奏中の動きを共有した女優が、ピアノを弾くイメージCMによって大きな反響を呼んでおり、現在はリハビリやトレーニングなど、医療・スポーツ業界からの引き合いが増えている。

デバイスの豊富さや性能から、まずは動作の共有からユースケース開発を進めているが、いずれは感情も共有できるようにするという。そのために期待しているのが、対応デバイスの開発だ。

「感情をセンシング、アクチュエーションできるデバイスがあれば、感情の共有はすぐにでも可能だと思う。ぜひデバイス開発の動きが加速してくれるとうれしい。感情の共有が実現できれば、バックグラウンドが違う人同士でも円滑なコミュニケーションが取れる新しいサービスの提供ができるようになる」と石川氏は力を込める。

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