環境負荷削減への取り組みが、通信業界にも急速に広がっている。
2021年5月にソフトバンクが、同年9月にはNTTドコモが2030 年までにカーボンニュートラルを達成するとの目標を発表。ドコモの発表会見では副社長の廣井孝史氏が、温室効果ガス排出削減における「通信業界の責任は重い。これはドコモの企業使命の1つだ」と話した。
KDDIも今年4月、従来は2050年度としていた「CO2排出量実質ゼロ」の目標年度を20年前倒しした。同社の通信設備が使う電力に起因するCO2排出量は、一般家庭の50万世帯分に相当するという。5G普及によってさらなる増加が見込まれるなか、ネットワークの省エネ化と再生可能エネルギーへの転換を加速させる。
モバイル網の消費電力は0.6%地球規模でみた場合、モバイルネットワークの消費電力は決して大きくない。ノキアの調べでは、ICTセクターの温室効果ガス排出量は世界全体の1.4%、電力使用量は約4%に相当するという。内訳は、ユーザー端末が約半分、データセンターが29%、固定ネットワークが13%、モバイルネットワークは11%だ(図表1)。エリクソンの調査では、モバイルネットワークの電力使用量は、世界全体の0.6%と見積もられている。
しかも、モバイルネットワークは他産業の脱炭素化に役立てることもできる。5G、そして2030年代に実用化される6Gを社会のデジタル化、スマート化に広く活用できれば、他業界の環境負荷削減に貢献できる。
図表1 ICTセクターにおける温室効果ガス排出内訳
ノキアソリューションズ&ネットワークス CTOの柳橋達也氏は、「人や組織の移動を減らす、建物や交通機関の運用を効率化するなどの方法によって、温室効果ガス排出を回避できる。GSMAのレポートでは、モバイルネットワークの普及によって間接的に削減できた効果は、モバイル自体が消費する電力量の約10倍に相当するそうだ。今回のCOVID-19の流行で、その倍数はもっと増えるだろう。モバイルの力でデジタル化を進めることで、社会全体が低炭素化に向かう可能性がある」と語る。
エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏も「0.6%しか電力を使っていないモバイルネットワークが、他産業の電力削減に15%貢献しているとするデータもある」と話す。5Gと6Gで産業界のモバイル適用が広がれば、“Green by ICT”の効果はさらに高まるはずだ。
上昇カーブを抑え込めただし、5G/6G の活用範囲の拡大とトラフィック増によってネットワーク自体の消費電力が増大してしまえば、それも絵に描いた餅になる。JST低炭素社会戦略センターの予測(図表2)によると、国内のデータセンターとネットワークで消費される電力は2030年に、2018年比で4.9倍に増加。現在の技術を前提とすれば、2050年には550倍へ膨れ上がるという。
図表2 ICTインフラ関連の消費電力予測(国内)
また、エネルギー関連で世界が直面する問題は環境負荷だけではない。ロシア・ウクライナ戦争を発端にエネルギー価格が高騰し、化石燃料の調達と電力の安定供給に懸念が広がっている。電力コストの高騰も確実視されており、通信インフラの安定運用と低廉な通信サービスの維持には省エネ化と再生可能エネルギーへの転換等が急務だ。
その準備は、5G展開を進めている今から始めなければ間に合わない。モバイルネットワークの消費電力はこれまで、トラフィック量の増大や基地局数の増加に伴って伸びてきており、5Gではより一層の上昇カーブが予想されるからだ。モバイルネットワークが消費する電力の80%は無線アクセス(RAN)で使われているが、5Gではその数がLTEと比べて飛躍的に増える。図表3のEnergy Curveを抑え込むには、抜本的な見直しが必要だ。
図表3 Breaking the energy curve approach