中小企業にもブレイクアウトの波SD-WANの市場が拡大している背景は、クラウド活用の加速がある。
多くの企業WANは中央集権型のアーキテクチャになっており、インターネット接続などの対外通信は本社/データセンター(DC)に集約させている。本社/DCの一極集中で、ファイアウォール(FW)やプロキシなどのセキュリティ対策を適用した上で外部と通信する構成だ。
しかし、企業ITインフラのクラウドシフトやコロナ禍でのZoomなどWeb会議の利用急増により、本社/DCを経由するネットワーク構成は非効率になっている。
そこで、SD-WANにユーザーが期待している機能の1つが「ローカルブレイクアウト」である(図表2)。これは各拠点に設置したSD-WANエッジ装置が、DPI(Deep Packet Inspection)機能などを利用してトラフィックの宛先を検知し、その宛先に応じてトラフィックをルーティングさせる技術。これにより、例えばMicrosoft 365やZoomなどへのアクセスは本社/DCを経由せず、拠点からバックアップ用のインターネット回線を通して直接アクセスさせる。トラフィックをオフロードすることで、本社/DCや拠点間を結ぶ閉域網の帯域がひっ迫することを防げるのだ。
図表2 ローカルブレイクアウトのイメージ
このためローカルブレイクアウトは、クラウド利用時のパフォーマンス向上にとどまらず、コスト削減にもつながる。「高価で帯域の細い閉域網の代わりに、安価で広帯域のブロードバンド回線を活用できる」と日本ヒューレット・パッカード Aruba事業統括本部 技術本部 コンサルティングシステムエンジニアの横山晴庸氏は語る。近年のSD-WANエッジ装置にはトラフィックのQoS制御機能などがあるため、アプリケーションごとに優先制御することで、インターネット回線を使いながらも、体感品質を高めることが可能だ。
このローカルブレイクアウト機能は、「特に海外では閉域の回線とインターネット回線のコストが何倍も違う」(ソフトバンク グローバルサービス部サービス企画1課/2課 課長代行の野口剛史氏)ことから、海外拠点やトラフィック量が多い拠点を中心に導入が進んでいた。
しかし、2020年ごろから低価格のSD-WANサービスの新規参入が増加したことで、風向きが変わった。1拠点あたり月額5000円から1万円でSD-WANを利用できるマネージドサービスが市場に出回り、中堅中小企業でもトラフィックがコロナ禍で増加する中、ローカルブレイクアウトを目的としたSD-WAN導入が増えている。
足元では、GIGAスクール構想もSD-WANの普及を後押しした。生徒1人ひとりにPC/タブレットなどを配り、クラウドサービスを用いて授業をする機会が増えたことでトラフィックが増大。膨大なトラフィックを効率的に伝送するために、SD-WANの導入が加速したのである。