「当社のビジョンは『技術ありき』ではない」
KDDIの6Gのビジョンについて、KDDI 技術企画本部 副本部長 兼 KDDI総合研究所 先端技術研究所長の小西聡氏はこのように断言する。
2030年ごろの実現が期待されている6Gに向けて、すでに多くのプレイヤーが動き出している。ただし、現時点で発表されている6Gビジョンは、2030年ごろに実現可能と見込まれている技術から逆算して作られたものも少なくない。
例えば、「テラヘルツ波の研究開発が進むことから、100Gbpsを超える超高速・大容量通信が可能になり、AR/VRを高度化したホログラム通信が実現する」といった具合だ。
いわば技術が社会を作っていくという発想だが、KDDIとKDDI総合研究所が2021年3月に公開した「Beyond 5G/6G ホワイトペーパー ver1.0」の場合、「生活者(ユーザー)、経済、社会、この3つをうまく回すために技術がある」という考えが根底にあると小西氏は説明する。
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KDDIの考える6Gにおける技術と社会像の関係性 (出典:KDDIとKDDI総合研究所「B5G/6Gホワイトペーパー 1.0版」) |
新型コロナウイルスを例にとると、これからの社会は感染拡大を防ぐための技術を求めていく。6Gにも、複数の無人店舗にある多数のIoT機器を収容したり、配達ロボットを制御するインフラとしての役割が期待されるはずだ。
「コロナだけでなく脱炭素など、これから取り組まなくてはいけない課題は多い。4Gまでの時代は個人の生活だけを求めていればよかったかもしれないが、今は人々の生活、経済、社会の3つのバランスを取りながらうまく回していくこと求められており、6Gで解決しなければならない」と小西氏は語る。
つまり、技術を起点に将来を考えるだけでは十分ではない。あるべき将来像を実現するために必要な技術を作っていく。将来像と技術を両輪として捉えている点が、KDDIの6Gビジョンの特徴だという。
KDDI リサーチアトリエの様子(出典:KDDI ニュースリリース)
リサーチアトリエの役割について、小西氏は次のように語る。「4Gまでは『画像を観れるようにしよう』『動画を観れるようにしよう』などのユースケースや、これらのユースケースを実現するための無線技術の進化はある程度は見えていた。5Gの時代に入ったが、現時点ではまだ5Gならでは魅力的なユースケースやキラーアプリケーションについては開発途上である。そこで、10年後の6Gを考えるにあたって5Gの課題や、まだ見えてない実現すべき課題を見つける必要があり、KDDI research atelierを設立した」
小西氏の指摘する通り、現状は5Gが社会に与えた変化やユースケースは限定的だ。この課題を置き去りにして6Gの研究開発を進めても上手くいかないだろう。そこでKDDIでは技術研究とビジョンの両方を深く考える必要があると考えているのである。
実際、KDDIではBeyond 5G/6Gの白書に先立ち、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定している。「2030年のユースケースを検討し、技術を用いてどのようにユースケースを実現するかを検討している組織はあまり多くないのではないか。ビジョンと技術の両輪で2030年のことを考えているのはKDDIの強みだ」と小西氏は語った。