「5Gで人を支える、人に優しい工場を実現しようと考えている」。富士通5G/ICTビジネス推進室でシニアマネージャーを務める上野知行氏はこう意気込む。
ローカル5Gの免許申請が始まったが、最大のマーケットと目されるのが製造業。工場におけるローカル5Gのユースケースの検討が具体化する中、浮き彫りになってきたのは、ローカル5Gは現場で働く“人”の能力を支援・拡張できるということだ。
スマートファクトリーについては、ロボットの自動制御などによる「無人化」の視点で語られることが多い。もちろん、それは重要な方向性の1つだ。しかし実は今、モノづくりの現場では、人の重要性が高まっている。ニーズの多様化や需要の不透明化などを背景に、「変種変量生産」への対応を迫られているためだ。変種変量生産の場合、ロボットを変更するよりも、「人手で生産してしまった方が早いことも多い」と上野氏は説明する。
熟練工不足も深刻化する中、これからのスマートファクトリーには、人のスマート化も求められているのである。そして、移動体である人のスマート化には、無線通信が適している。
新人が熟練工と同じ動き「こんなに人が立っているのか」。変量変種生産を行っている富士通の小山工場。工場見学に来た外国人は、よくこう言って驚くという。この小山工場で力を入れているのが、映像IoTによる人手作業の最適化だ。
生産ラインに設置したカメラで撮影した映像をAIで分析。例えば、箱詰め作業であれば、入れ忘れだけではなく、マニュアルと違う手順で作業してもアラートが上がる。「新人でも、ベテランと同じように作業できるようになる」(上野氏)。
小山工場では現在カメラを有線で接続しているが、「ローカル5Gの免許申請を準備中だ。免許が取れ次第、入れ替えを検討している」。
5Gに変更するメリットは、カメラを動かせるようになることだ。「できれば、モノや人の流れに沿って、カメラも動かしたい」。工程毎や作業員毎ではなく、生産ラインの全工程を1つの流れとしてカメラに収めてAIで解析することで、全体最適を図ろうという狙いだ。
他の無線通信ではなく、5Gが必要なのは大容量通信が可能だからだ。
「4K/8Kの高精細カメラを活用すれば、熟練工の動きとの違いがミリ単位で見えてくる。人間の目に4Kと8Kの差は分からないが、AIは見つけられるものが全然違ってくる」と富士通 5G/ICTビジネス推進室 シニアディレクターの神田隆史氏は語る。
富士通の映像分析技術のイメージ。4K/8Kの映像なら人体を関節や骨格などまで認識して人の動きを解析可能だ |
また、神田氏はこうも言う。「Wi-Fiでやろうとすると、相当の帯域を消費するため、現在Wi-Fiでつながっている別システムが止まる可能性がある。やはり“道路”は分けたい」
ライセンスバンドを使うローカル5Gなら干渉は起こりにくく、大容量通信を安定的に実現できる。上り通信に多くの帯域を割り当てるなど、用途に応じた柔軟な運用も可能だ。
神田氏が指摘するように、すでにWi-Fiを別のシステムで使っている工場は多い。LANケーブルを工場内に新たに敷設するのもコストがかかりすぎる。ネットワークが映像IoTの導入を阻む壁となっていたケースは少なくなく、ローカル5Gが突破口となるのだ。
NEC 新事業推進本部 部長の新井智也氏も映像IoT活用に期待している(図表)。「工場内での映像活用を柔軟に行えるようにしていく、高精細化していくうえで、ローカル5Gは非常に重要。工場内での映像活用はかなり増えてきているが、我々もさらに積極的にソリューションを積み上げていく」。
図表 高精細画像のAI分析による生産性向上の一例