「IOWNはインターネットを超える新インフラ」NTT取締役 川添雄彦氏に聞く

2030年をめどに実現するとして、NTTが2019年5月から提唱し始めた「IOWN構想」。インテル、ソニーとグローバルな推進団体を作り、インターネットを超える、多様な価値を創出可能なICT基盤を目指している。IOWN構想とその中核をなす「オールフォトニクス・ネットワーク」について、NTT 取締役 研究企画部門長の川添雄彦氏に話を聞いた。

――なぜ今、「IOWN構想」を打ち出したのでしょうか。その理由について、まずは教えていただけますか。

川添 きっかけはいくつかあって、様々なベクトルから最終的にIOWN構想に辿り着きました。

その1つとしては、現在のAIのアプローチでは、いずれ限界を迎えると感じていたことがあります。これまでのAIは、どちらかというと人間の能力をデジタル化して、デジタルトランスフォーメーション(DX)に活用していくというアプローチです。しかし、現実世界における人間の能力は、非常に限られたものです。例えば、近年大きな被害をもたらしている異常気象を正確に予測するのに、人間の能力だけではとても足りません。

生物学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュルは「環世界(Umwelt)」という概念を提唱しています。すべての生物は種特有の知覚システムを有しているという考えです。

例えば、ミツバチが蜜のありかが分かるのは、ヒトには見えない紫外線が見えるからです。また、シャコは生物界最強の知覚システムを持っていると言われており、ヒトの視細胞が3原色しか知覚できないのに対し、シャコは12色を脳に直接取り入れて処理しています。

川添雄彦氏

――様々な社会課題を解決するためには、多様な能力の実現が必要ということだと思いますが、そのことがどうしてIOWN構想に結び付くのですか。

川添 現在の情報システムの多くは、まず目的を決めて、その目的に基づいて情報を取得し、処理を行っています。あくまで人間にとって価値がある情報だけを伝送しているわけです。

――それでは、ミツバチやシャコの眼で見たときの価値を後から取り出そうとしても無理ですね。

川添 そうです。現実世界のあらゆる情報を活用して社会課題を解決するためには、最初にフィルタリングなどは行わず、情報を全部持ってきて、最後の段階で処理方法を選択した方がいいわけです。

ただ、現在の技術でこうした大容量の伝送や処理が本当に可能かどうかというと、大きな壁に突き当たっています。

例えば、より高速に処理できるデバイスを作るため、さらにCMOSチップの集積度、あるいは動作周波数を上げようにも消費電力がネックとなり、これ以上は上がらない時代を迎えています。

――「ムーアの法則」は限界に近付きつつあると言われています。

川添 ええ。ですから、今まで以上に高度なICTを実現するためには、抜本的な技術革新を起こさないといけない─。そう考え始めたのがIOWN構想の出発点でした。

月刊テレコミュニケーション2020年1月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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川添雄彦(かわぞえ・かつひこ)氏

1987年4月にNTT入社。2003年8月サイバーコミュニケーション総合研究所 サイバースペース研究所 主幹研究員、2007年10月サイバーコミュニケーション総合研究所 サイバーソリューション研究所 主幹研究員、2008年7月研究企画部門担当部長、2014年7月サービスイノベーション総合研究所 サービスエボリューション研究所長、2016年7月サービスイノベーション総合研究所長を経て、2018年6月に取締役 研究企画部門長(現在に至る)。工学博士

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