あらゆる産業界の中でも最大のIoT関連支出が見込まれる製造業。米IDCによれば、世界のIoT市場規模7450億ドル(2019年見込み)のうち、組立製造が1190億ドル、プロセス製造が780億ドルを占めるという。製造業は2位の運輸(710億ドル)を大きく引き離している。
5Gの最大のターゲットの1つも、この製造IoTだ。工場向けに1000万サイトを超える基地局が新設され、世界の基地局サイト数を3倍に押し上げるとする米Habor Researchの予測もある。
実際、国内製造業の期待も高い。エリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏は、「有線やWi-Fiを使っている工場から、5Gを使いたいという要望は多い」と話す。通信ケーブルを廃してライン変更を容易にしたり、AGV(無人搬送車)等をIoT化したりするのが目的だ。
工場ではWi-Fiが使われるケースも多いが、様々なシステムが稼働する工場では電波の相互干渉が起こりやすく、混雑時の遅延変動も避けられない。「LTEや5G NR(5G New Radio)なら干渉がなく、NRは低遅延にもなる」(同氏)。
エリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏(右)と、
技術本部 標準化・レギュレーション担当部長の本多美雄氏
99.9999%の壁ただし、製造IoTと一口にいってもユースケースは様々で、無線通信に求める要件もそれぞれ異なる。フリート管理ならば広域な接続性が重視されるし、映像による工程監視やAR(拡張現実)による作業支援では高速・大容量通信が必要だ。温度や振動等のデータを収集するためのセンサーネットワークを作るなら、現状ではNB-IoTやLTE-Mが適しているだろう。
これらはLTEでも十分に対応可能であり、5Gに期待されるのはやはり超低遅延・高信頼通信(URLLC)である。工作機械/ロボットの制御通信がその代表例だが、この要件がとにかく厳しい。
機械制御・オートメーションに関わる製造IoT向けアプリケーションで要求される通信遅延時間は概ね1~10ms。さらに、製造業への5G適用を目指してドイツ電気電子工業連盟(ZVEI)が2018年4月に設立した業界団体「5G Alliance for Connected Industries and Automation(5G-ACIA)」では、製造IoTにおける5Gのユースケース検討と要求条件の洗い出しを行っているが、最も要件が厳しいモーションコントロールでは「99.9999%以上の可用性」「サイクルタイム0.5ms以下」が求められている。
図表1 IoTコネクティビティ技術 信頼性、遅延とスループット要件
モーションコントロールは、モーターによる位置制御など工作機械/ロボット制御の中核を担う技術だ。サイクルタイムとは1工程にかかる時間を指し、工作機とそのコントローラとの間の通信の遅延時間には、0.5ms以下よりもさらに厳しい性能が要求される可能性もある。
3GPPおよびITU-Rが定めたURLLCの条件は、「32バイト以上のパケットデータ量の99.999%以上の送信成功率」と「無線区間1ms以下の遅延」を同時に満たすこと。エリクソン・ジャパンの技術本部 標準化・レギュレーション担当部長を務める本多美雄氏は、「ユーザーサイドの要求は、それよりもかなり高い」と指摘する。
現状、このモーションコントロールの通信には産業用イーサネットが用いられている。ノキアソリューションズ&ネットワークス 技術統括部 部長の柳橋達也氏は、「これを無線化するのが5Gの1つの目標になる」と語る。伝送容量は必要ないが、低遅延性と信頼性を極限まで追い込まなければならない。
ノキアソリューションズ&ネットワークス 技術統括部 部長 柳橋達也氏