高速大容量、低遅延・高信頼、多数同時接続という5Gの特徴を「自営網」で実現できるローカル5Gならではのユースケースには、どのようなものがあるのか(図表1)。
図表1 ローカル5Gのユースケースの分類
まず、代表的なユースケースと目されているのが、スマートファクトリーだ。
工場では、人手不足が大きな課題となっている。そのため、自動化による生産性向上が喫緊の課題となっている。また、最近は少量多品種生産が主流となっており、ライン変更が頻繁に発生するが、その都度ケーブルの配線を変えるのは大変な作業だ。センサーやロボットなど、ネットワーク化したい機器の数が増え続けるなか、無線化のニーズは工場でも高まっている。
しかし、生産設備の制御に利用されるネットワークには、高いリアルタイム性と安定性が求められる。既存のWi-FiやLTEなどでは、十分な品質を確保することが難しかった。そこに登場するのが、低遅延・高信頼を特徴する5Gである。「5Gで初めて無線化する工場が多く出てくるだろう」とエリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏は指摘する。
スマートファクトリーにおいて、キャリアの5Gではなくローカル5Gを選択するメリットは大きく3つある。
まずは高い安定性が期待できることだ。公衆サービスではなく、また帯域を占有できるため、輻輳や干渉の心配がない。
2つめは、ローカル通信のためセキュリティを担保できることだ。工場内の情報は、基本的に機密情報であり、外部に出したくないと考える企業が多い。「データ量で稼働率が推察されてしまうことすら避けたいと考えるお客様もいる」とNEC 新事業推進本部 エグゼクティブエキスパートの長門正喜氏は話す。ローカル5Gはオープンなネットワークに接続しないので、IoTデータが外部に漏れるリスクをさらに軽減できる。コアネットワーク(EPC)もオンプレミスで設置すれば、データが一切外部を通らないようにできる。
3つめに、希望する場所に柔軟にエリア展開できることだ。キャリアの5Gの場合、5Gの基地局をいつどこに設置するかは当然キャリアの都合次第。一方、ローカル5Gであれば、エリアや導入時期などのすべてをユーザー企業の都合で決められる。
ローカル5Gによって、工場内の様々な機器から上がってくる大量の情報をリアルタイムに収集・活用できるようになれば、「デジタルツイン」の具現化も容易になる。実際の生産設備のデジタル化された“双子”であるデジタルツインによって故障を事前に予知したり、ライン変更のシミュレーションなどを実行したり、デジタル時代の工場を実現できる。