スマートメーターへの採用進むHD-PLC――集合住宅での検針に強み発揮

国内では法制度に阻まれ、用途が限られているHD-PLC。しかし今、安定性や高速性、マルチホップ機能などの特徴を活かし、マンションのスマートメーターへの採用が進みつつある。

電力メーターのスマート化が進んでいる。大手電力会社は2024年の普及率100%を目指し、スマートメーターへの切り替えを行っているところだ。

従来のアナログ誘導型電力量計では、検針員が1カ月に1回、各家庭を訪問して目視で計測していた。それがスマートメーターでは毎日30分ごとに電力使用量が自動的に計測され、ネットワークを通じて電力会社に送信される。

スマートメーターに使われている通信方式は①3G/LTEなどの携帯電話回線、②920MHz帯を使う特定小電力無線Wi-SUN、③電力線通信(PLC)の一種であるG3-PLCに大別され、電力会社ではこれらの方式を適材適所で組み合わせて展開している。

具体的には、郊外や山間部は携帯電話回線、密集した住宅地はメーター間をマルチホップ機能(端末が中継機能の役割を果たし、長距離通信を可能にする技術)により通信を行うWi-SUN、地下街やマンションなど屋内はG3-PLCといった具合だ。

こうしたなか、スマートメーターの通信方式にHD-PLC(高速電力線通信)を採用する動きが新たに起きている。

膨大なデータも欠測なく測定HD-PLCは、2~28MHzと高い周波数帯を用いて電力線に情報信号を乗せて送る通信技術。ノイズに強く安定した通信が可能で、しかも最大240Mbpsと高速データ通信を行える点が、G3-PLCを含む低速PLCにはないメリットとされる。

韓国に本社を置くヌリテレコムは、富士電機メーター向けに、AMIシステム「AIMIR(アイミール)」を提供している。

AIMIRは、AMI(スマートメーター通信システム)のヘッドエンド機能(メーターとの通信管理)とMDMS(検針データ管理)機能を併せ持ったシステムパッケージ製品。富士電機メーターが通信機能や開閉機能を備えたスマートメーターを提供、ヌリテレコムは通信モデムや集約装置から上位のシステムまでを手掛ける。

アルテリア・ネットワークスが、集合住宅向けの電力一括受電サービスに、このAIMIRを採用し展開している。

電力一括受電は、マンションなどの集合住宅において、建物全体で電力会社と一括契約することでまとめて電力を購入し、低圧に変電して各戸に配電するサービス。世帯ごとに電力会社と契約するよりも毎月の利用料金が安くなるとあって、電力自由化以降、徐々に広まっている。

AIMIRは、各戸のスマートメーターから検針値を収集し、専用サーバーのデータベースに蓄積。フォーマットを変換し、料金計算や請求サーバーなどの基幹システムと連携させる(図表)。

AIMIRを導入することで、遠隔からの自動検針のほか、メーターデータの管理、電力会社の料金プランに合わせた料金計算など、MEMSを実現することができる。

図表 高圧一括受電サービス向けAMIシステムのイメージ
図表 高圧一括受電サービス向けAMIシステムのイメージ

ヌリテレコムは、グローバルでAMIシステムを展開しており、北欧やアフリカで大規模導入の実績がある。国内では2012年から提供しており、当初は無線メッシュネットワーク技術を採用していた。「マンションなどの無線ネットワーク環境は初期構築時に外的要因の影響を受けることがあり、通信環境が安定するまで調査・検証の時間が必要になることがあった」とヌリテレコム プロダクト開発部 部長の辰巳俊雄氏は振り返る。

ヌリテレコム プロダクト開発部 部長 辰巳俊雄氏
ヌリテレコム プロダクト開発部 部長 辰巳俊雄氏

スマートメーターは先述のように30分に1回のペースで各家庭の電力使用量のデータを収集するが、その際、高い収集率が求められる。より安定した通信技術を模索する中で出会ったのが、HD-PLCだったという。

HD-PLCは、マンション内の低圧電力線を使って通信を行う。各戸のトランス(変圧器)ごとにPLCの親機を設置し、クラウド上の検針システムにデータを送信する。HD-PLCの特徴の1つに、マルチホップ機能があり、メーター内に実装されたPLC通信ユニットが同機能を使って建物全体を接続する。このため、ビルの高さに関係なく安定した通信を行うことが可能になる。

トランス(変圧器)に対し1台の親機を設置し、親機からはイーサネットで接続・集約している
トランス(変圧器)に対し1台の親機を設置し、
親機からはイーサネットで接続・集約している

HD-PLCスマートメーターを導入した地上16階、地下2階のマンションでは、2ホップで全体をカバーできたという。2019年には40階建て以上のタワーマンションでの導入も予定されているが、「5~6ホップで収まるのではないか」と辰巳氏は予想する。

HD-PLCは、膨大なデータの送信にも強みを発揮している。2017年に提供を開始してから、3棟のマンションでスマートメーターが導入されているが、「まだ一度も欠測が起きていない」(辰巳氏)という。

月刊テレコミュニケーション2018年12月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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