ディープラーニングは従来のAIと何が違い、ビジネスをどう変化させるのか?そして、ようやくディープラーニングが登場します。ディープラーニングは、機械学習の1つの手法として位置づけられます。
ディープラーニングは脳の神経回路を模倣した仕組みとなっています。人間の脳は、「ニューロン」と呼ばれる神経細胞が無数に集まり、神経伝達のネットワークを作っています。これを人工的にマネたものが「ニューラルネットワーク」と呼ばれるものであり、ディープラーニングで採用した仕組みです。
図表1 ディープラーニングのイメージ
ディープラーニングでは、図表1における入力層からデジタルデータを入力し、複数の中間層を経由して出力層から回答を得ることになります。
それぞれの中間層(ノード)をどのように接続するか、あるいは、それぞれの中間層は「どのような入力に対して、どのような出力を行うか」などを調整していくことで、入力に対する出力が決まっていきます。
そして、この中間層の階層が深くなり、ノードが多くなると、その分、複雑な分類や判断ができるようになります。
ディープラーニングの「ディープ(深層)」という言葉は、この「層を深くする」という意味なのです。
さて、さきほど、「ディープラーニングは機械学習の1つの手法」と言いましたが、ディープラーニングには、一般的な機械学習とは大きく異なる点があります。
それは、
「人間が何も指示しなくても、大量のデータを読み込ませることで、AI自身が対象の特徴を見出し、判断や分類ができるようになる」
ということです。
これは、ディープラーニングの内部構造で説明すると、「ニューラルネットワーク自身が、各ノードの接続や、ノードの入力に対する出力内容を調整していく」ということです。
2012年、「GoogleのAIが猫の画像を認識した」というニュースが話題となりました。当時、「なぜ、そんなことがニュースになるんだ?」と思われた人も多かったようですが、これがディープラーニングによる成果でした。
ディープラーニングを採用したGoogleのAIは、YouTube動画から切り出された大量の画像を読み込み、自分自身でニューラルネットワークの調整を行い、誰の助けを借りることもなく「視覚としての猫の概念(パターン)」を獲得したのです。
図表2 GoogleのAIが自ら獲得した猫の概念
出所:Google Official Blog
これは、生まれたての赤ちゃんが、五感を通じて様々な情報をすさまじいスピードで吸収し、様々な概念を獲得していくプロセスに通じるものがあります。
もちろん、「猫の概念の獲得」で実現したものは視覚に相当する画像認識だけですが、今後、他の分野においてもAIが自分自身で概念を獲得できる可能性は高まりました。
ちなみに、この猫を認識したGoogleのAIは、1万6000個のノード(CPU)を接続したニューラルネットワークで構成されていますが、人間の脳全体では千数百億個のニューロンが存在します。
まだまだ小さな一歩ですが、今後、AIが自分自身の力で世界の様々な事象・対象に対してゼロから概念を獲得し、判断や分類ができるようになる可能性が現実味を帯びてきたのです。
以上が、ディープラーニングが注目されるようになった理由です。
さらに、猫の概念獲得以降も、ディープラーニングの研究は様々な成果を挙げています。
2015年には、画像認識で誤検知率が人間を下回りました。つまり、画像認識ではAIは人間の能力を超えたと言えるでしょう。
2016年、Googleのアルファ碁というAIが囲碁のトップ棋士を破りましたが、これもディープラーニングの成果です。
現在では、音声認識でも人間の能力を超えた、と言われています。
このように、ディープラーニングを採用したAIは自ら進化していくでしょうが、今後、我々のビジネスに、どのように活用できるのでしょうか。
ディープラーニングの革新性は、何と言っても
「大量のデータを読み込ませることにより、自ら概念やパターンを見つけ出す」
点にあります。
これにより、たとえば
・工作機械の振動や音から、人間にも分からない軽微な異常を見つけ出す
・ベルトコンベアのラインから、画像認識により僅かな不良品を検出する
・生産ライン上の異物を発見する
・株取引のチャートで、これまで人間が気付かなかった新たな売買シグナルを見つけ出す
・消費者の活動や購買履歴から、マーケティングにつながる新しい活動・消費シグナルを発見する
など、人間の能力を超えた認識能力により、様々なビジネス領域で、より高次のレベルでの活動が可能になると考えられます。
さらにディープラーニングにより、「判断」「分類」につづき、「予測」技術も精緻化することが期待されています。
現在注目されている自動運転においては、AIがどんなに正確に運転できたとしても、子供の飛び出しや対向車線の車の危険運転などがあった場合、それらをとっさに回避できないことには、実際には使いものになりません。
そのような緊急時の対応を可能にするものが「予測」の技術です。
ディープラーニングによる予測技術が実用化された時が、真の自動運転車の時代の幕開けかも知れません。