「大量に蓄積したセンサデータを分析すれば、超電導MRI装置の故障予兆を検知するシステムが開発できると考えた」。日立メディコのサポートサービス事業部カスタマーサポート本部サービス企画開発部で担当課長を務める稲原徹氏はこう話す(注)。
注)日立メディコは2016年4月1日付で日立製作所の組織再編により同社に統合
超電導MRI装置とは、磁気と電波を利用して人体の内部を撮像する医療機器だ。患者の体を検査するときに利用するが、突然の故障などで利用できなくなると診療に遅れが生じることになる。また、緊急時の修理は通常のメンテナンスに比べて費用がかさんでしまう。
こうした医療機器の突発故障を回避することは、医療業務と経営の両面から、医療機関にとって重要なテーマだ。
数カ月前に故障予兆を検知する国は、安全性を確保する観点から医療機関に対して医療機器の保守点検を行うことを義務づけている。しかし、超電導MRI装置など高度な医療機器の保守点検を医療機関自身が行うことは困難だ。そのためほとんどの医療機関は医療機器メーカーに医療機器の保守点検を委託している。
そういったなか、日立メディコは医療機器メーカーとして、1990年代半ばから超電導MRI装置のリモート保守サポートを提供してきた。
これは医療機関で稼働している超電導MRI装置をネットワーク経由で保守するサービスで、装置に搭載したセンサのデータをもとに機器の状態を把握する仕組みだ。また、同社のサポートスタッフは顧客の操作画面をネットワーク越しに確認しながらサポートを行ったり、不良画像を参照することで故障パーツを特定したりする。
同時に、超電導MRI装置に搭載したセンサデータのログを収集し、そのデータを監視・分析担当チームのメンバーが解析することも行ってきた。
チームの中でもエキスパートと呼ばれる経験豊かなスタッフは、収集したセンサデータを監視・分析したり、グラフを作成したりすることで蓄えてきた気づきをもとに、「この装置はそろそろ故障が発生しそうだ」などと予測できるという。
しかし、そのような高いスキルを持つスタッフはごく少数だ。また、世界中で稼働しているすべての超電導MRI装置のセンサデータを人がモニタリングすることは不可能だ。同社はセンサにしきい値を設定することによって故障予兆の検知を行ってきたが、その手法で検知できるのは故障が発生する数日前のこと。数日のリードタイムでは、故障前に部品を交換するなどして安定した状態を保つ予防保全は難しく、故障が発生してから部品を交換する事後保全となるケースが多かった。
数日前ではなく、数カ月前に故障の予兆をとらえたい――。そのために開発したのが、超電導MRI装置向け故障予兆診断サービス「Sentinel Analytics」だ。
図表 超電導MRI装置の故障予兆診断サービスの概要 |
このシステムを実現することができれば、超電導MRI装置が使えなくなる前に、故障を引き起こす部品の交換を済ますことが可能になる。ITの力を用いることで大量のデータを分析し、自動的に故障の予兆をとらえることが可能になるのだ。