壁の中や地中からでも繋がるネットワーク――NB-IoTとはどのようなものなのですか。
邱 日本などですでに携帯電話の主力として使われている4G(LTE/LTE-Advanced)をIoTに対応しやすくした新しい通信規格です。現在の4Gでは20MHz幅の電波(搬送波)で最大150Mbpsの通信を行うことができますが、NB-IoTはこれを切り出して100分の1の200kHz幅単位で使います。通信速度は数10kbpsから100kbps程度とかなり遅くなりますが、確実に信号を送ることができます。
――ユーザーにとってどのような利点があるのでしょうか。
邱 大きく3つの利点があります。1つがカバレッジの拡大です。日本でセルラーIoTの通信に多く使われている3G(W-CDMA)よりも、はるかに強く信号を送ることができ、機器の筐体の内部や地面や壁に埋め込まれたセンサーとも通信が可能です。これにより幅広い用途で使え、導入も容易になるのです。
2番目が省電力性です。NB-IoTでは、例えば10年間バッテリーを交換せずに使うといったことが可能です。これにより機器を寿命まで使って、そのまま交換するといった簡易な運用が実現できます。
3番目がコストです。通信方式が簡易で、既存の携帯電話のエコシステムを活かせますから、対応デバイスの数量が増えれば価格も一気に下がるはずです。最終的には通信モジュールの価格は5ドル以下になると見ています。
――IoTでの利用を想定したLTEの拡張技術では「カテゴリM」も3GPPで標準化されています。これとNB-IoTはどのような関係になるのですか。
邱 IoT通信にはさまざまな要求があります。その中でも、高速通信へのニーズが強い監視カメラやデジタルサイネージ(電子広告)などの用途には、現行の4Gで対応することができます。
カテゴリMは1Mbps程度の通信速度で構わないので、端末価格を抑えたいというニーズに応えようとするもので、スマートホームや無線POSなどの分野での利用が想定されています。
そしてこの2つでカバーできない分野をカバーしようということで作られたのがNB-IoTになるわけです。NB-IoTは、センサーネットワークの他、先ほど述べた荷物や動物などのトラッキングや農業分野など幅広い分野で使われることになるでしょう。2020年時点で想定されているセルラーIoTの30億接続のうち7割をNB-IoTが担うことになると我々は見ています。ファーウェイは、セルラーIoTで3領域すべてに取り組んでいこうとしているのです(図表2)。
図表2:セルラーIoTにおけるNB-IoTの位置づけ
――NB-IoTはいつ頃実用化されるのですか。
邱 3GPPでは今年の6月から9月までに規格を固めようとしています。当社は標準規格が決まったあと3カ月程で製品を出荷できるようにしたいと考えています。早ければ9月、遅くとも年末には準備は整うはずです。
――2017年には、ファーウェイのNB-IoT製品を使ってサービスを行う携帯電話事業者が現れると。
邱 そう考えていただいて構いません。
――NB-IoTの導入には、新たに周波数の割当てを受ける必要はないのですか。規制の見直しも必要になりますから、日本での導入はかなり先になるのではないでしょうか。
邱 NB-IoTでは大きく3つの導入形態が想定されています。
1つが2G(GSM/PDC)などの狭帯域の旧システムの跡地へ導入する形ですが、日本ではこうした帯域はもう残っていません。恐らく2番目の4Gと他のシステムとの間のガードバンドを利用する手法や、3番目の4Gの帯域の一部をNB-IoTに置き換える形が有力になるでしょう。
――LTEがベースになっているので、そうした手法が取れると。
邱 その通りです。日本で今後、どのような対応が進められるかわかりませんが、いくつかの国・地域の規制当局の方とお話をさせていただいたところ、多くの国でNB-IoTの導入に際して法改正は不要、あるいは非常に簡略な方法で導入が可能になるのではないか考えられているようですので、楽観視しています。