NECは企業向けSDNに最も早く取り組んだベンダーだ。データセンターも含むが、NECのSDNは企業や官公庁・団体ですでに200システム以上が稼働しているという。
同社は昨年8月、企業向けのSDN製品を拡充した。従来、OpenFlowスイッチ/コントローラで構成される「UNIVERGE PFシリーズ」を提供してきたが、これに加え、企業向けルーター/LANスイッチ製品「UNIVERGE IXシリーズ」「同QXシリーズ」にもSDN機能を搭載し、「SDN Ready製品」として販売を始めたのだ。
SDN Ready製品とは、導入当初は従来通りのルーター/スイッチとして使いながら、必要になった段階でSDN機能を有効にし、SDNコントローラを追加導入すれば、機器の入れ替えなくSDN 環境に移行できるというもの。段階的なSDNへの移行を可能にすることで、企業向け市場の開拓を進めようという狙いだ。
「立ち上がりは非常に良い。SDN関連のパイプライン(見込顧客)も、それ以前と比べて3倍程度に増えており、売上ベースでも、昨年度比3倍から4倍になってきた」と、スマートネットワーク事業部長の北風二郎氏は話す。
「専門家でなくても」が価値
ユーザーはSDNにどのような価値を見出しているのか。北風氏は「運用の効率化・省力化だ」と話す。より細かく見ると、(1)運用管理の属人化を解消したい、(2)複数のネットワークが乱立している状態を解消して運用をシンプル化したい、(3)仮想ネットワークを素早く用意できるようにして新サービスを迅速に開始したい、といったニーズが多いという。
こうした課題は、従来のネットワーク製品でも解消できるものばかりだ。だが、ベンダー毎に異なる仕様・機能を使いこなせる技術者、管理者は限られる。これが、共通の言語・仕様で制御できる仕組みを提供できることが、OpenFlow/SDNの価値だ。
例えば、(3)の仮想ネットワークも、単に論理分割をするだけならVLANでできる。これを、ネットワーク専門のSEでなくとも柔軟に構成・変更し、かつ信頼性高く運用できるようにするという点が、SDNの訴求ポイントと言えるだろう。
例えば、沖縄県西原町は新庁舎移転を機にPFシリーズで新ネットワークを構築したが、その目的は複数の物理ネットワークが乱立していた状況を解消してシンプルなネットワークを構築すること、そして、用途ごとに仮想ネットワークを作り低負荷に運用することだった。
同町では、ネットワークの専門家ではない情報システム担当者がトレーニングを受け、短期間で仮想ネットワークを運用することが可能になったという。規模的にも中堅中小企業レベルの導入事例であり、さまざまな企業・団体へ展開可能なモデルと言える。
ネットワーク運用の複雑さ、負荷の大きさは、特に中堅中小規模の企業ほど課題となる。「体力のある大企業は運用をアウトソースしてしまうので課題に気づかれていないケースも多い。だが、中堅中小企業のお客様は手放せない。そこに非常にフィットする」と北風氏は話す。
SDN対応したIXルーターを使って「WANのSDN化」を検討するケースも増えてきているという。図表のように、データセンターと拠点間の接続を冗長化している場合に、2系統のうち1本をバックアップとして寝かせておくのではなく、2本の回線それぞれに特定のアプリケーションを割り当てて、両方をアクティブに用いるというものだ。アプリの利用状況によって片方の帯域に大きな余裕が生じたら、ダイナミックに設定を変更してもう一方のトラフィックを空いた回線に回して平準化する。
図表 SDN対応UNIVERGE IXシリーズの適用イメージ |
拠点や工場の多い製造業から、このWANのSDN化の要望が特に多いという。従来環境で同じことをやろうとしても、その度に各拠点のルーターに設定変更コマンドを打ち込まなくてはならず、現実的ではなかったが、SDNなら振り分けルールさえ規定しておけばよい。これも、多拠点展開の流通業など、他業種に展開できる可能性が高い。