「チームに支えられている」という安心感
ゆうき訪問看護ステーションの並木氏は、病院と在宅医療の違いをこう説明する。
「病院なら、24時間、常に医療者が近くにいます。しかし、在宅医療は違います。私たちは曜日や時間を決めて、“点”で関わっていくわけです」。在宅医が患者を訪問するのは通常月1~2回である。
しかし、在宅医、訪問看護師、ケアマネジャー、訪問薬剤師など、1つひとつの“点”を上手につないでいければ、それは“線”になる。
だから、訪問薬剤管理を行うアトム薬局 代表取締役の藤巻徹郎氏がKDDI ChatWorkに書き込むのは、専門の薬剤に関する情報だけではない。
「山梨県はこたつ保有率が日本一ですから、こたつでずっと生活していて、リンパ浮腫を悪化させる方は結構多いんです。例えば、そんな方に気付くと、患部の写真をiPadで撮影し、KDDI ChatWorkにアップして情報共有するなどしています」
アトム薬局 代表取締役 藤巻徹郎氏 |
在宅医療は、バラバラの点で行われているのではない。「チームに支えられている――。そんな患者さんの安心感にもつながっていると思います」と並木氏はiPadとKDDI ChatWorkの導入効果について話す。
次なるステップは情報共有の輪のさらなる拡大
このように確かな導入効果を実感する一方、甲府市医師会は課題にも直面している。「今はまだ70台と、規模的にはトライアルみたいなもの」(のだ内科クリニックの野田氏)というiPadとKDDI ChatWorkの展開を、今後さらにどう広げていくかという問題だ。
「まだ使っていない在宅医や訪問看護師などにも、ぜひ使ってほしい」「在宅医療関係者だけではなく、病院の先生たちにも情報共有に参加してほしい」など、iPadとKDDI ChatWorkによる情報共有の輪がもっと広がれば、さらに充実した在宅医療が実現できると、関係者たちは口を揃える。
しかし、ここで立ちはだかるのが予算の壁。甲府市医師会では、iPadの導入台数を数百台規模まで増やしたいと考えているが、現在のところ、そのための予算の目途は立っていないという。
日本の国民医療費は今、年間約40兆円に上る。2025年にはさらに約52兆円まで膨らむ見通しだ。こうした超高齢社会の諸問題を解決するのに、ICTが有効なことは間違いない。では、予算面も含め、ICTの活用をどう推進していくのがいいのか――。甲府市医師会の課題は、国全体で議論していくべき課題ともいえるのだろう。