これまでもアジアやグローバルマーケットで仕事をしてきたが、このたび米国から香港へと活動拠点を移す機会を得た。今回はここ香港での体験をぜひご紹介したい。私の見る限り、アジア太平洋地域における「モノのインターネット」(IoT)の展開に向けたビジネスケースは昨年までよりも確実に強まっている。
現在、アジア太平洋地域の重役会議では必ずIoTが議題に上っている。これまでの議論はIoTの技術的な可能性をめぐるものだったが、今年はより戦略的、製品開発志向の議論に移行していくものと思われる。経営幹部のあいだでは、「利益を得るためにコストを削減しつつ、イノベーションを追求する」というトレンドがますます鮮明になっている。IoTは人、プロセス、資産、知的情報を結びつけ、経営上の意思決定が合理化され、収益が増加するというのだ。
なかでもIoTソリューション一式をセットとして販売することにより生み出される収益に関しては、かなり白熱した議論が繰り広げられている。これは他社との差別化要因になりえるし、また、IoTが新たなビジネスオファーを生みだし、ソリューション全体のアップセリングを実現するwin-win戦略につながる可能性もある。そのため企業は、時間とリソースへの投資と支出をビジネスケースの一部として正当化することができるのである。
新たなトレンド
IoTの急速な進歩のなかで、スマートホームやコンシューマー向けウェアラブルデバイスなどのソリューションと並んで、産業用IoTの大規模な導入といった動きが見られる。
海運業では、米国と同じくアジア企業もIoTシステムを利用しており、輸送中のトラックやコンテナ、温度管理が必要な貨物を追跡し、信頼性を高めるとともに高価値商品の品質保全に努めている。重機への依存度が高い鉱業、建設業、農業などの産業では、機器を遠隔でモニタリングしてメンテナンス性、安全性、効率性を改善している。メーカーは生産システム、サプライチェーン、企業ITを収斂させ、複雑なグローバルビジネスのパフォーマンスと機動性を高めている。自動車業界はIoT技術を導入して、コネクテッドカーによる新たな収益モデルの構築を競い合っている。自動車向けIoTの分野で世界をリードするAT&Tの予測によると、2017年には世界で販売される新車の32%、米国ではその60%に通信モジュールが内蔵され、コネクテッドカーの総数は1000万台に達する見込みである。
各国が競争力強化に注力するなかで、世界の製造業への需要は重工業とエネルギー部門を中心に増大している。これにより中国、日本、韓国、オーストラリアなど製造業の拠点では、当然のことながら産業用IoTの需要が高まっている。規制当局は市場需要に遅れをとらないよう、頻繁に優先分野を見直している。
ビジネスの成果を決定づける
それでは、このような新たなトレンドにどう対処し、行動すべきだろうか。
– 今日のIoTデバイスはより小型で安く、エネルギー効率、感度、精度が向上している。
– 急増するIoTデータに対応するため、公衆通信網が拡大されてきた。
– クラウドコンピューティングの発達により、複雑なIoTシステムの企業への導入・管理が容易になり、コスト効率も向上している。
– 新たな産業用IoTソリューションや、強力なアナリティクス・ソフトウェアが次々と市場に投入されている。
– 企業は、設備、車両、サプライチェーン、最終製品をIoTに統合するメリットを認識している。
2014年がIoTの準備の年だったとすれば、2015年はIoTソリューションの発展・展開の年として、具体的な成果と投資への効果が現われてくると確信している。