ERP大手のSAPが通信業界向け事業の強化に乗り出している。
同社はこの5年ほどの間に、中核の基幹業務システム以外の製品提供範囲を広げてきた。M&Aによって情報系システム分野を拡充、インメモリデータベース「SAP HANA」を基盤として、それら情報系およびERPにおいてビッグデータをリアルタイムに活用するためのプラットフォームを強化してきた。また、そうしたソリューションのクラウド化やモバイル対応も推進。2013年には収益の6割をこれら新分野が占めるまでになっている。
従来に比べて幅広い領域でビジネスを展開すべく事業構造の変革を進めるSAPが特に力を入れている産業の1つが通信業界だ。テレコムインダストリービジネスユニットを統括するバイスプレジデントのステファン・ゴティエン氏は次のように話す。
「我々が手掛ける25業種のうち、公共・金融・小売、そして通信の4つを特に“戦略的インダストリー”として位置付け、重点的に投資してきた。なかでも通信業界は“デジタル・エコノミー”のすべてを制御・統括する位置にある。SAPは通信事業者を、デジタルな経済圏の中核を担う存在と見なしている。また、通信業界そのものも変革期を迎えており、激化する競争環境のなかで通信事業者が打ち勝っていくために、その変革を支援していくことが我々の使命と考えている」
(左から)SAP AG Vice-President / Global Head Telecom Industry Business Unit ステファン・ゴティエン氏、SAP Asia Pte Ltd GM Telecommunications Strategic Industries, Asia Pacific Japan リー・ウォリンスキー氏 |
データ解析・クラウド企業を買収
ゴティエン氏は、通信業界向け事業戦略の柱として次の3つを挙げる。(1)通信事業者が加入者の主体性に重点を置いたビジネスモデルに転換することを支援する「Customer Centricity」、(2)オペレーションの効率化を実現する「Operational Excellence(卓越さ)」、そして(3)新たな収益源を確立するための支援を行う「New Digital Businesses」である。
SAPはこれを、買収企業のデータ解析技術や情報系システムとHANAを組み合わせたビッグデータソリューションによって実現しようとしている。
1つ目のCustomer Centricityとはつまり、加入者の流出を阻止し、さらに他キャリアから顧客を獲得するために顧客満足度を上げ続け、加入者が喜ぶオファーを継続的に提供していくことだ。これに貢献するのが、2013年に買収したKXEN社のビッグデータ解析技術と、Hybris社のイーコマース基盤である。
KXEN社のデータマイニングツール(買収後に製品名を「SAP Infinite Insight」に変更)は、分析モデルの構築と分析作業を自動化できることが特徴で、データサイエンティストだけでなく業務部門の一般ユーザーによるビッグデータ解析を可能にする。これとSAP HANAを組み合わせることで、大量の分析モデルを定義し処理することを高速に繰り返し、正確な加入者分析と予測が可能になるという。
一方のHybris社は、Webやモバイル、実店舗、コンタクトセンター等に対応したオムニチャネルのコマース基盤を持つ。あらゆる販売・流通チャネルをまたがった加入者/サービス管理を可能にし、SAP HANAとKXENによる高精度なプロファイル分析に基づき、加入者との結びつきを強化するための様々な施策を展開することができるようになる。