2020年代の「5Gビジネス」の主導権を巡り、国・地域間の競争が激しさを増している。
先陣を切ったのが欧州(EU)だ。2012年11月に世界に先駆けて5Gの研究プロジェクトMETISを設立、2013年12月には推進組織の「5G PPP(5G Infrastructure Public-Private Partnership)」を立ち上げた。2020年の5Gの実用化に向け7億ユーロ(950 億円)を5G PPPに投じて、技術開発などを支援していくという。
欧州はGSMの成功により2G/3Gビジネスで世界市場の主導権を握ったが、近年はLTEのインフラ整備で日・米・韓国に遅れをとるなど、勢いにやや陰りが見えている。5Gの開発を主導することにより、モバイル通信分野での復権を果たそうとしているのだ。
LTEインフラの整備で先頭を走る韓国は、その勢いを5Gにつなげようとしている。2013年5月には産官学連携による推進団体「5Gフォーラム」が設立されており、韓国政府は2020年末までに5Gを本格展開する計画を打ち出している。これに先立ち2018年に平昌で開催される冬季オリンピックで実証実験を行う考えだ。
ファーウェイをはじめとするインフラ・端末ベンダーが世界市場でビジネスを拡大している中国も、2013年2月に「IMT-2020推進グループを立ち上げ、5Gの実用化に向け本腰を入れてきている。
総務省が世界に先駆けて2020年に5Gを実用化する方針を打ち出した背景には、こうした海外勢の積極的な動きがある。
日本の5Gの舵取り役を担う「推進協議会」
国レベルでの5Gへの取り組みでは、やや出遅れた感があった日本だが、ここにきて巻き返してきている。
図表 総務省が策定した5Gへのロードマップ[画像をクリックで拡大] |
昨年9月から5Gのコンセプトを検討しているARIBの2020 and Beyond AdHoc(20B AH)は、その後、月に1~2回というハイペースで会合を重ねており、8月末を目途に検討結果をホワイトペーパーにまとめる。ARIB 常務理事の佐藤孝平氏は「ホワイトペーパーは100ページにわたる詳細なものだ。ITU-Rでの標準化に向けた検討作業では海外勢をキャッチアップできた」と見る。
電波産業会(ARIB) 常務理事 佐藤孝平氏 |
20B AHは10月にITU-Rのワーキング・グループにホワイトペーパーを提出し、役割を終える。今後の5Gの実用化に向けた検討は主に次の2つの組織で行われる。1つがARIBだ。佐藤氏は「ARIBに常設の部会、あるいは研究会を発足させて、5Gの技術仕様の検討を行うことを考えている」という。
もう1つ、日本の5Gの実用化に向けた舵取り役を担うことになるのが、電波政策ビジョン懇談会が7月の中間とりまとめで設立を提起した「推進協議会(仮称)」だ。中間とりまとめでは「5Gの研究開発、標準化活動、国際連携、周知啓発の方向付けを行う産学官連携の推進組織」と位置付けられており、年内の発足が見込まれている。
具体的な組織形態などはまだ固まっていないが、総務省電波部で5Gの実用化を所管する移動通信課長の布施田英生氏は「2020年に確実にやってくる5Gに対して産業界の方がしっかり対応できる組織体制を作っていきたい」と意欲を見せる。総務省では、2020年に向けて産官学連携による5G技術開発なども加速させていく考えだという。