ビールテイストの清涼飲料水「ホッピー」で知られるホッピービバレッジは、1905年に東京・赤坂で創業した100年余りの歴史を持つ老舗企業だ。
首都圏でのシェアが全体の約8割を占める“東京名物”的存在のホッピーだが、3代目社長の石渡美奈氏の積極的な経営改革やマーケティングにより、最近では国内のみならずグローバルにも事業を展開している。
事業の拡大とともに、約40名いる社員の仕事量は増加。赤坂の本社オフィスと東京・調布市にある工場を往復する機会も多く、移動時間がかさみ顧客対応に支障をきたすなど、効率的な働き方や社内の連携といった面で課題も生まれていた。
石渡社長は「中小企業は一人ひとりの仕事量が多く、各自のパフォーマンスを上げていかなければならない。小さな会社だからこそ『文明の利器』を活用することが必要」とコミュニケーション改革プロジェクトを立ち上げ、ビジネスコミュニケーション変革に取り組んできた。
実は、5年以上前にビデオ会議システムを導入したものの、音声と映像にタイムラグが発生する、画像が乱れるなど使い勝手が良くなかったため十分に活用されていなかった。
昨年11月、かねてより知り合いだったシスコシステムズの平井康文社長から同社のテレプレゼンスのデモンストレーションを見せられた石渡社長は、高精細な映像やクリアな音声によるスムーズなコミュニケーションに感銘を受け、導入を決断した。
今年4月、小規模会議室向けの「Cisco Telepresence SX20 QuickSet」を本社と工場に1台ずつ、同製品と連携した個人端末「Cisco Desktop Collaboration Experience DX650」を両拠点に計21台設置。全社員にiPadとUC(ユニファイドコミュニケーション)アプリケーション「Cisco Jabber Video for iPad」を配布した(図表)。
図表 ホッパービバレッジのUC構成図 |
余分な移動時間が減少
導入からまだ3カ月余りだが、徐々に成果が表れている。従来、社員は月1回の全社朝礼をはじめ報告会などのたびに片道1時間以上かけて本社と工場を行き来していた。導入後は、社内のすべての固定電話にビデオ通話機能が付き、簡単な操作で本社と工場を接続してビデオ会議を行えるようになった結果、移動時間が大幅に減少した。
また、部門ごとに固有の課題についても改善が見られるという。
営業部門では、日報のチェックを上司と1対1で行うため自分の順番が来るまで待たなければならないうえ、残務処理や翌日の準備もオフィスに戻ってから対応していたので、夜遅くまで会社に残る社員が多かった。
社員の3分の1は女性で、酒類業界の中では女性比率が高い。女性社員の帰宅時間が遅くなることは安全管理上も問題があったが、「Cisco AnyConnect」接続を利用して、社外からインターネット経由で安全にリモートアクセスすることが可能になり、ほぼ対面と同様の業務が行えるようになったことで、残業時間は減少しつつある。
一方、製造部門では、担当者が電話で話しているだけでは製造ラインの状況を把握しづらく適切な指示を出せなかったが、映像で現場の状況を共有できるようになり、コミュニケーションの精度が向上した。営業からの問い合わせやクレームがあった場合も製品の状態を詳細に伝えられるので、以前よりスピーディに対応することが可能になった。
iPadとデスクトップに置かれたIPビデオフォンを利用し、社長と社員も頻繁にコミュニケーションを取っている |
導入以来、最も活用しているのが石渡社長だ。海外出張の機会も多く、1年のうち約3カ月は日本を不在にしている。電話で話しているだけでは表情が見えず、相手がどのような表情でいるのか気になることもあったというが、今は空港や移動中にiPadで社員とフェイストゥフェイスのコミュニケーションを頻繁に取っている。