【UCサミット】野中郁次郎教授が語った「イノベーションとUCの関係性」

イノベーションとは知識創造活動に他ならない。では、企業はどう知識創造活動に取り組めばいいのか。ナレッジマネジメントの世界的権威である野中教授による基調講演の概要をレポートする。

2010年7月6日に開催された「UCサミット2010」の基調講演には、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が登壇。「持続するイノベーション・プロセスとリーダーシップ」と題する講演を行った。

野中氏はまず、イノベーション(革新)は「知」の創造プロセスであり、知の創造は単に理論だけではなく、実践を通して知識を磨き、知恵にするものであると主張。また、経営コンサルタント会社のブース・アレン・ハミルトンが2005年に行った調査を引き合いに出し、企業の優れた業績は研究開発投資の増加に要因があるのではなく、組織のイノベーション・プロセスの質の問題だとした。

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 名誉教授 野中郁次郎氏

「知の創造のプロセスは暗黙知と形式知のスパイラルアップである。また、創造のプロセスは直感から始まり、それをコンセプト化して理論モデルに分析し、実践することだ」と野中氏は話す。

こうした創造のプロセスを個人だけでなく、組織的にいかに行動するかを具体化したのが「SECIモデル」である。このSECIモデルのプロセスを回転させることで、創造性と効率性を両立させる知の総合力が発揮できるという。

「SECI」モデルでは、共同化、表出化、内面化、連結化を回すことで「知」の創造につながる
「SECI」モデルでは、共同化、表出化、内面化、連結化を回すことで「知」の創造につながる

また野中氏は、知のスパイラルアップで重要になるのが「場」づくりであると強調。その一例として紹介されたのが、本田技研工業の行う「ワイガヤ」と呼ばれる3日間の共同生活である。

ワイガヤの1日目は、社員1人ひとりの個と個がぶつかり合い、けんかが起きることもある。だが、そのうちに自己中心の殻が破れ、お互いに人間として向き合うようになる。2日目には相互理解の気持ちが生まれ、違いを認め合い、気に入らない相手の意見も受け入れられるようになる。3日目には自己意識を超えた深みからから「相互主観の創造性」が生まれるようになり、こうした時に新たなコンセプトが生まれやすいのだという。

「ワイガヤのプロセスは重要で、一度、お互いを認め合う経験をした者同士は、その後、地理的に離れても文言の背景にある意味を理解し合える」と野中氏は話す。

さらに野中氏はソフトウェア開発会社のチェンジビジョンの例も挙げた。同社はソフトウェアの開発において「アジャイルスクラム」という手法を導入しているが、その源流はスクラムアプローチにある。スクラムアプローチとは、個々に専門性を持ちながら、チーム全体で同一の主観が成立する状態を指す。このスクラムアプローチをIT分野に活用したものがアジャイルスクラムである。

「アジャイルスクラム」によって、各メンバーは独自に動きながらも全体としては同じゴールを目指せる
「アジャイルスクラム」によって、各メンバーは独自に動きながらも全体としては同じゴールを目指せる

アジャイルスクラムではスクラムマスターを育成し、顧客やチーム、マネジャーらからのインプット=直感を吸収する。さまざまな作業単位をスプリントと称して、それぞれに期限を設け、スクラムを組みつつ作業に当たる。毎日必ず15分のミーティングを行い、各メンバーは独自に動くが、全体としては同じゴールへ向かう。スプリントの評価と反省を必ず行い、知識やノウハウを持続的に蓄積していく。

プログラミングを行う際は、2人で1つのペアとなって行う。親方と徒弟の関係の復活であり、それにより技能の継承がスムーズに行われる。また、作業の見える化を行い、指示がなくても各自が自発的に作業を開始できる体制を作る。さらに、ふりかえりによって、暗黙知の共同化と形式知への変換を行っている。

「チェンジビジョンのスタッフが、ソフトウェア開発という厳しい仕事を行いながらも元気に働いている理由は、彼らがソフトウェア開発は知識創造プロセスだと考え、実践し、それを支援するシステム『アジャイルスクラム』があるからだ。知の創造は自己実現そのものなのだ」

重要なのは、このようにして動き出した知が利益につながらなければ持続しないということ。知の創造の結果が利益に変換するシステムこそがビジネスモデルと言えるという。

ビジネスの継続には、知が利益をもたらすことが重要となる
ビジネスの継続には、知が利益をもたらすことが重要となる

ビジネスモデルとは、自社にしか提供できない価値を、どのような能力から生み出し、どのように顧客に届けて、優れた収入・コストの構造にして利潤に結び付けるかの構造であり、とりわけ重要なのが「価値命題」。価値命題は、孤立した「モノ」ではなく、関係性を持った「コト(=イベント)」によって生み出される。ユニファイドコミュニケーション(UC)もイベントを生み出すものだと野中氏は指摘する。

「ビジネスモデルを生み出すプロセスは知の創造プロセス。直感と試行錯誤の連続。SECIモデルを絶えず回していないと生まれてこない。『実践知』が必要とされるのだ」

実践知は現実の動きの関係性のなかで判断することで養われていくもの。野中氏は、実践知リーダーシップの能力として、(1)「善い」目的を作る能力、(2)場をタイムリーに作る能力、(3)ありのままの現実を直視する能力、(4)直感の本質を概念に変換する能力、(5)概念を実現する能力、(6)実践知を組織化する能力の6つを挙げた。

野中氏は最後に、「実践知のリーダーは、動きながら考え抜くことが必要だ」と述べ、講演を締めくくった。

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