ポストWiMAXの可能性も
では、TD-LTEとLTEの違いはどこにあるのだろうか。
TD-LTEの特徴としてまず挙げられるのは、TD-SCDMAとフレーム構成などが揃えられていることだ。TD-SCDMAは、中国移動が08年から展開しているTDD方式の3G携帯電話システム。これにより近接する周波数でTD-LTEとTD-SCDMAを運用しても干渉の影響が回避でき、基地局の共用化も容易となる。TD-LTEは、中国の市場環境を念頭においてデザインされたシステムなのである。
もう1つの大きな特徴は、WiMAXなどで訴求されているTDDの利点がTD-LTEでも継承されていることだ。具体的には以下の3つが挙げられる。
(1)ペアバンドを必要としないため、FDDに比べ運用周波数の確保が比較的容易である
(2)タイムスロットの非対称割り当てが可能であり、ダウンロードトラフィックの多いデータ通信では、下りに多くのタイムスロットを割り当てることで帯域の有効利用が図れる
(3)上り下りに同一の周波数を使うため、スマートアンテナが容易に導入できる。時間ごとに特定の端末に指向性を向ける「ビームフォーミング」をMIMOと切り替えて利用することで、通信状況の改善や容量の拡大が実現できる
特にWiMAX陣営がモバイルブロードバンドでのTDDの優位性として強調してきたのは(2)と(3)である。
TD-LTEは、WiMAXの開発などでこうした技術ノウハウをすでに持つベンダーにも大きなビジネスチャンスをもたらしている。例えば、WiMAXインフラ市場トップのモトローラは昨年春、TD-LTEの開発協力について中国政府と合意。5月1日に開幕した上海国際博覧会(上海万博)会場で中国移動が実施している大規模トライアルに屋内基地局や端末を提供するなど、欧米のベンダーの中でも特に活発な動きを見せている。
モトローラのインフラ部門でアジア太平洋地区の責任者を務めるモハメッド・アクター氏は「当社はOFDM技術にいち早く取り組み、07年にはWiMAX基地局の提供を開始。その後、モバイルWiMAX、FDDのLTEと3世代にわたって技術を蓄積してきた。これらの技術資産の67割はTD-LTEにそのまま生かすことができ、迅速な展開が可能になると中国政府の担当者に昨春説明させていただいたが、これが今回の万博のデモンストレーションにつながった」と話す。
世界初となるモトローラのTD-LTE対応USBドングル |
さらに重要なポイントとなるのが、WiMAXなどで培われたこれらの技術要素と、その後策定されたLTEの技術要素が融合することで、より高性能なモバイルブロードバンドシステムが実現できる可能性があることだ。
一例が高速移動時の通信のサポートである。現行のモバイルWiMAXでは時速120kmでの通信をサポートしているが、LTEでは時速350kmに対応できる。伝送遅延(RTT)もLTEのほうが格段に小さいのでVoIP対応が可能だ。帯域幅も倍の20MHz幅まで対応でき、最大通信速度を大幅に向上できる。
実はこれらのスペックは2012年に商用化が見込まれる次世代WiMAX(IEEE802.16m)で実現が想定されているものだ。TD-LTEはこれらを前倒しで実用化する技術なのである。関係者の間では、数に勝るTD-LTEが、遠からずWiMAXを吸収するという見方が強くなっている。