クラウドを支える“真”のIT・NW統合管理とは?――NECがR&D説明会を実施

NECは2010年7月1日、同社中央研究所の研究内容を紹介するR&D説明会を記者向けに開催した。

技術紹介に先立ち、まずはNECの研究開発の基本方針について、執行役員常務の國尾武光氏が説明を行った。NECは、2017年に向けたグループビジョンとして「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」を掲げているが、同氏はその実現のために先行研究を行うのが中央研究所の役割とし、そのためには「人間の創造性や活力を増大させる、持続可能な社会を進展させるといった2つの軸で考えていく必要である」と語った。ただ、テクノロジーオリエンテッドな従来型の研究開発と比べて、こうした発想による研究開発は非常に難しいという認識も同時に示した。

では、どうやって、この壁を乗り越えるのか――。その答えが「R&D+M」だという。これはR&D+Market型の略で、将来の社会やマーケットが欲しがっている価値を捉えながら、的確な目標に適宜変更していくこと。また、外部の企業などと協働するオープンイノベーションもさらに促進していく方針だという。

「人と地球にやさしい情報社会」を実現していくうえでの具体的な長期研究ビジョンとなるのは、「シンバイオシス」「ディペンダブル」「エコロジー」の3つだ。シンバイオシスとは、人と社会、人とIT、人と人がお互いに共生できるような環境、技術のこと。また、ディペンダブルとは安心・安全に暮らせる社会のことで、例えば絶対に止まらない社会インフラの実現などが目標になるという。

NECの研究開発の基本方針
NECの研究開発の基本方針

國尾氏の説明の後は、この3つの長期研究ビジョンから1つずつ、合計3つの技術が披露された。最初に紹介されたのは、C&Cクラウド戦略を支えるIT・ネットワーク統合基盤技術「OpenFlow」だ。

現在クラウド化が急速に進展しているが、NEC中央研究所 支配人の陶山茂樹氏によれば、今のクラウドの大きな課題は「ITとネットワークがうまく連携できていないこと」だという。その結果、IT・ネットワークリソースに対する過剰投資や、運用管理体制の複雑化が生じているとのことだ。OpenFlowは、グローバルに分散するIT・ネットワーク資源の統一的な制御・管理を実現するもので、CAPEX/OPEXを削減できるという。

発表会では、最大負荷で設計すると10台×2セットの合計20台のサーバーが必要だが、ITおよびネットワーク資源の最適制御により6台×2セットの12台で運用を行うデモが行われた。陶山氏は、広域に分散したリソースを統一的に制御・管理できる技術は事実上、他にはないとし、「OpenFlowはITとネットワークの真の統合管理を実現する技術だ」と強調した。

OpenFlowのデモの模様

OpenFlowのデモをしているところ。サーバーリソースを割り当てると同時に、各ネットワークの構成も自動最適化された

次に紹介されたのは、こちらも話題のスマートグリッド関連の技術だ。スマートグリッドのネットワークでは、太陽光発電の出力情報や検針情報、外気温情報など、さまざまなセンシング情報が流れるが、現状のIPネットワークでは、電圧低下警報といったミッションクリティカルな情報も他の情報と等しく扱われる。そのため、緊急を要する事態への対応が遅れる怖れがある。

そこでNECが研究開発を行っているのがコンテンツルーターである。これはリアルタイムにパケットの内容を解析するDPI(Deep Packet Inspection)技術を利用したもので、情報の内容に応じて優先的にルーティングすることが可能だという。例えば、太陽光発電を導入している家庭において、急に晴れから曇りになり、太陽光発電の出力が低下したため、警報が発信されたとする。コンテンツルーターを活用すれば、こうしたミッションクリティカルな情報は優先的にルーティングされるため、適切に対処できるというわけだ。

最後に披露されたのは、不審者検知や犯罪捜査などパブリックセーフティ事業向けの顔認識技術だ。従来の顔認識技術では、顔向きや照明の当たり方の違い、眼鏡の有無、年齢や髪型の変化などがあると、本人照合が困難になるという課題があった。

しかし、NECが新しく開発した方式では、1枚の登録画像からさまざまな姿勢・照明の画像を生成し、学習。さらに、大量の顔画像データから個人を識別する最適な特徴を抽出する「多元特徴識別」により、上記のような変化があっても、低いエラー率で照合が行えるという。

デモでは10年前の写真や、眼鏡をとった状態、横を向いた状態でも、実際にきちんと本人照合が行えている例が示された。また、160万人の登録画像から照合を行うNIST(米国標準技術研究所)のベンチマークでも、NECの新方式は照合エラー率0.3%と、競合他社の約10分の1のエラー率を達成しているという。NEC中央研究所 支配人の澤田千尋氏は、指を装置に置く必要がある指紋認証などと比べて、顔認証は利用しやすく、「今後、世界中で使われていく」と見ているとのことだ。

顔認識技術
眼鏡なしの状態でも、しっかり本人と照合できている(左)。一方、右の従来方式の場合、他人の本人照合スコアも閾値を超えてしまっている。このほか、10年前の写真、右を向いた写真などでも、きちんと照合できることが示された

中央研究所の研究員は約1000名。この日、紹介された技術は、直近のビジネス化を控えたものばかりだが、30年先の世界を見据えた研究開発にも、中央研究所では注力しているという。

関連リンク

RELATED ARTICLE関連記事

SPECIAL TOPICスペシャルトピック

スペシャルトピック一覧

NEW ARTICLES新着記事

記事一覧

FEATURE特集

WHITE PAPERホワイトペーパー

ホワイトペーパー一覧
×
無料会員登録

無料会員登録をすると、本サイトのすべての記事を閲覧いただけます。
また、最新記事やイベント・セミナーの情報など、ビジネスに役立つ情報を掲載したメールマガジンをお届けいたします。