ワークスタイル変革Day UCサミット2013レポート日本IBM北氏「ワークスタイル変革には情報基盤と制度、そして覚悟が必要」

IBMは2002年前後に経営危機に陥った。この危機を乗り越えるうえで重要な役割を担ったのがユニファイドコミュニケーション(UC)だった。9月10日に都内で開催された「UCサミット2013」で、日本IBMの北好雄氏は、IBMが行った構造改革に伴うワークスタイル変革への取り組みについて説明。3つのステップを踏んで成功に導いたという。

「会社が変わらなければ、ワークスタイルは変革できない」

ワークスタイル変革のステップ2での気付きとして北氏は、「トップがぶれずに実行すること」を挙げる。変革を主導する“イノベーター”として、すべての経営陣が先頭に立って実行することによって社員は追随してくる。「会社はああ言っているが私の考え方は違う」などと言って実行に移さない経営陣がいると社員は付いてこない。

「日本IBMでもこの理由でワークスタイル変革を遅らせてしまった経験がある。トップがぶれずに実行することはとても重要なことだ」

また、変革を実行するうえでは、全体の整合性を取ることが大切だという。「ワークスタイルを変革すれば会社が変わると考えられがちだが、実際には順番が逆。会社を変えることでワークスタイルを変革できる」と北氏は主張する。

例えばIBMの場合、One IBMを実現するという目標がまずあった。その目標に向かって、企業文化や経営理念を変え、それに基づいて経営戦略も変えていく。次に業務のオペレーションや人事制度、IT基盤を整備し、これらがうまくいった結果としてワークスタイル変革も実現できた。

会社を変えることでワークスタイルを変革できる
ワークスタイルを変革すれば会社が変わるのではなく、会社を変えることでワークスタイルを変革できる

「ワークスタイルを変革しようと叫んでも、例えばそれを評価する人事制度が整っていなければ社員は付いてこない。また、スマートフォンを導入して『明日からモバイルワーカーになってほしい』と言っても、1日の終わりにオフィスに戻り、日報を書いて上司のハンコを押してもらわなければならないといった作業を続けさせるとしたら導入効果は薄いだろう」と北氏は指摘する。

社員同士がお互いにどんな人で、どんな経験やスキルを持ち、どんな知識や情報を持っているのかを知り、探す手段が重要であることにも気付いた。

「IBMではその手段としてConnectionsを活用している。例えば私のプロフィールや写真は、世界中の社員が見ることができる。また、私が過去に作成した資料をConnectionsに登録しているため、それらを誰でもダウンロードすることが可能だ」

さらに、コミュニケーション手段を選択して組み合わせ、状況に応じて適切なものを使わないといけないことがわかったのもステップ2での気付きの1つである。

コミュニケーションを取りたい相手が近くにいれば、多少、手段を間違えてもそれほど大きな影響はない。だが、IBMのように世界中に社員がいる企業では、少しでもタイミングが遅れると時差の関係で1日や2日があっという間に過ぎてしまう。その結果、ビジネスのスピードが上がらず、商機を逃すこともあり得るのだ。

「コミュニケーション手段は、時間軸(リアルタイムか否か)と場所(会わなければ解決しないか否か)、共有する情報の性格を考えて選択することが重要だ」と北氏は言う。

「経営陣だけでなく、一般社員にも覚悟が必要」

ステップ3は「継続と適応」である。ワークスタイルを変革しても、継続し、適応していく意識がなければ数年で効果が薄れてしまう。

IBMの経営危機は、世の中の動向を正しく把握できなかったことに原因がある。同社はその苦い経験を踏まえ、「GIO(Global Innovation Outlook:社会の動向)」と「GTO(Global Technology Outlook:技術の動向)」「GMV(Global Marketing View:市場の動向)」の3分野について、各界の有識者やオピニオンリーダー、政府関係者などの意見を聞き、年に1回レポートを作成。「経営戦略を立てる際は、そのレポートの内容をほとんど採用すると言っていいほど重要視している」(北氏)という。外部からの視点を取り入れることを継続して行っているのだ。

各界の有識者やオピニオンリーダーなどの意見を聞き、経営戦略に役立てている
「GIO」と「GTO」「GMV」の3分野について各界の有識者やオピニオンリーダーなどの意見を聞き、経営戦略に役立てている

また、IBMは構造改革を継続的に推進するための仕組みの1つとして、「エンタープライズ・プロセスオーナー」制度を設けている。オーナーには副社長級の上級役員を登用している。

例えば業務プロセスをグローバルで統一しようとした場合、各拠点は少なからぬ抵抗を示す。その国の商習慣に合わせて業務プロセスを最適化してきたので、今さら変える必要はないというわけだ。

だが、それはあくまで部分最適であり、会社全体で考えると効率が悪い。そこで、エンタープライズ・プロセスオーナーを筆頭にして「5%ルール」を推進していく。ローカルの要件は5%以内に抑え、95%以上はグローバルで統一するという厳しいルールである。

「このルールを適用することで、確かに各拠点は少しずつ不便を感じることになるが、IBM全体で見ると効率がよくなり、ビジネスを最大化することに結びついている」と北氏は説明する。

ステップ3での気付きとして北氏が挙げたのは次の3点。「トップが関与し続ける」「継続するための仕組みを作る」「社員1人ひとりに判断とバランスが求められる」の3つだ。

「IBMが経営危機に陥った当時の自分を振り返ると、所属する事業部のために一生懸命働いていた。だが実際には一生懸命に働けば働くほど会社全体の価値を損ねていた。二度とこういうことがないよう、社員1人ひとりが会社の価値を高めるために何をすればいいのかを判断し、バランス感を持って働くことが重要になる」と北氏は述べる。

最後に北氏は、ワークスタイル変革に必要なこととして3つのポイントを改めて提示した。1つはワークスタイルの変革を支える情報基盤とツール、2つめはワークスタイル変革を促す制度、そして最後はワークスタイル変革を実行する“覚悟”である。

「精神論になってしまうが、経営陣だけでなく、一般社員にも覚悟が必要。他人任せだとワークスタイル変革はうまくいかないからだ」と話し、講演のまとめとした。

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