アンテナも用途別に選択
次に検討すべきなのはアンテナだ。これについても複数の種類があるため、用途に応じた選択が必要となる。
そのうち「スタンダードV4アンテナ」は、一般的な陸上利用を想定した標準モデルで、衛星を自動追尾する機能を持つフェーズドアレイアンテナを搭載。アンテナの視野角は110°となる。重量は付属品を含めて12.2kgで、持ち運びもでき、建設現場や仮設拠点での活用に適している。消費電力は75~100Wで、一般的なAC100V環境で運用可能だ。
「ハイパフォーマンスアンテナ」は、常時稼働や大容量通信に適した上位モデルだ。視野角は140°と広く、空の広い範囲を見渡せるため、複数のLEO衛星を同時に補足しやすい。この特性により、見通しが限られる山間部や、衛星の通過頻度が比較的少ない極地といった環境でも、安定した通信が期待できる。高性能ゆえに消費電力も110~150Wと大きく、専用電源ユニットが付属する。
「Starlink Mini」は、A4サイズ程度の筐体と付属品を含めて7キロ弱の軽量設計が特徴で、携帯がより容易だ。消費電力は最大で40Wと小さいため、ポータブル電源を活用した運用も可能。セットアップも簡単で、標準的な設置なら15分程度で行える。
それぞれのアンテナは高い耐候性を持つ。船上など過酷な環境での使用に耐えうることはすでに多くの事例で実証済みだ。融雪機能も備え、多少の雪なら気にせず運用できる。
アンテナは買い切りが基本となる。KDDIはアンテナを含む接続キットの提供価格を公開しており、視野角110°のアンテナを使用する「Enterpriseタイプ Starlinkキット」は14万800円、ハイパフォーマンスアンテナのキットは43万1750円、Starlink Miniのキットは12万8700円(いずれも税込、送料含む)となる(図表3)。要件によってはリース・レンタルでの利用が可能な場合もある。
図表3 KDDIのアンテナキットの主な仕様
Starlinkアンテナと端末との接続については、SpaceXが標準でWi-Fi 6対応のルーターを提供しており、特別な要件がなければこのルーターだけで基本的な無線環境を構築できる。Starlinkアンテナはイーサネットアダプターを介して市販のルーターや法人向けのネットワーク機器と接続でき、既存の資産も活用可能だ。
標準的な構成では足りない場合も、各社はStarlinkで使用可能な構成を提案してくれる。例えばソフトバンクでは、広範囲にWi-Fiを展開したいというニーズに応え、通信距離が最大500mに及ぶサードパーティー製Wi-Fiルーターを設定済みで納品しており、「建設用途で多く使われている」(同社 法人プロダクト本部 コミュニケーションサービス第2統括部 ネットワークサービス開発第2部 部長の古田信一氏)という。
安定運用には施工も重要
プランと機器が決まればいよいよ設置だ。最も簡易なケースではアンテナとルーターを設置し、電源を入れれば利用を始められる。機器のみの納期は申し込みから3~10営業日ほどだ。
ただし、安定した運用を実現するには、アンテナの向きやケーブルの引き込み方法、電源や周辺機器との接続など、施工上の配慮も重要となるため、通信事業者の支援を仰ぐのが望ましい。
アンテナは、衛星の軌道を見通せる場所に設置する必要があり、周囲に遮蔽物がない環境が求められる。ビルの屋上や開けた平地が好適地とされ、可搬型の場合でも空が大きく開けた場所を確保しなければならない。
ケーブルの引き込みや防水処理などの工事が必要な場合、標準的な納期は1.5~2カ月程度とされている。
実際、こうした条件下での導入には高度な対応力が求められる。NTTドコモビジネスは、北海道の水力発電所の遠隔監視用途でのStarlink導入を支援。積雪対策として、建屋の屋根よりも高いポールを設置し、その上にアンテナを取り付けた。同社 ビジネスソリューション本部 ソリューションサービス部 デジタルソリューション部門 主査の松崎史晃氏は「当社は全国規模で柔軟な設置工事に対応できる」と語る。KDDI、ソフトバンクもまた、各地で工事パートナーを手配する体制を整えており、全国レベルで導入支援を提供する。