「5G-Advancedの標準化では、あらゆるカテゴリでAI/ML(機械学習)が議論されている。AI/MLは以前から使われてきたが、3GPP標準で規定したほうがいいくらいに広がってきたということだ」
エリクソン・ジャパン CTOの鹿島毅氏はそう話す。昨年完了したRelease 18(Rel-18)と現在進行中のRel-19における機能拡張は図表1の4領域、「パフォーマンス改善」「新マーケット」「サステナビリティ」「ネットワーク自動化」に分けられるが、AIの導入はそのすべてにまたがっている。
図表1 5G advanced(Rel-18,Rel-19)における機能拡張の4カテゴリ
どのカテゴリも通信事業者にとっては喫緊の課題だ。ネットワーク運用は今や人手では対応できないほど複雑化し、コストが増大。事業者間のパフォーマンス差への関心は高まり、また省エネ化の要請も厳しさを増している。
そして、5Gは今後、ネットワークスライシングを駆使してユースケースごとに最適な接続性を提供する新時代に入る。この「差別化されたコネクティビティ」による5G収益化を実現するために避けられないのが、運用パフォーマンスの向上だ。
スライシングをダイナミックに提供するとなれば、さらなる運用の複雑化を招くが、「それができるかできないかが、ビジネス機会を捕まえられるかに直結する」(鹿島氏)。
エリクソン・ジャパン CTO 鹿島毅氏
マルチベンダーRANをAIで制御
2010年代に議論が始まった5Gアーキテクチャは、AI/ML技術を前提とはしていない。対して、「6Gは最初からAIネイティブに作る」(同氏)ことが予想されており、5G-Advancedから段階的に導入が進んでいく。
キャリアインフラを提供するベンダーはこれまでもAIを活用したソリューションを開発・提供してきているが、冒頭の通り、その手法・技術が3GPP標準に組み入れられていく。これにより、「複数ベンダー間でのインターオペラビリティができる」と期待を述べるのは、NTTドコモ R&Dイノベーション本部 6Gテック部 無線標準化担当部長の永田聡氏だ。「AI/MLを適用する領域、レイヤーはどんどん広がっていくだろう」。同担当課長の青栁健一郎氏も「ベンダーロックインはやはり避けたい。マルチベンダー環境での基地局運用を進めていくなかで、AIによる制御が標準化されることは大きい」と語る。
NTTドコモ R&Dイノベーション本部 6Gテック部 無線標準化担当 担当部長 永田聡氏
永田氏によれば、Rel-18では3つの機能拡張においてAI導入が議論された。モビリティ制御と基地局の負荷分散、省電力化だ。
モビリティ制御はユーザーの移動などに応じてハンドオーバー等を行って通信品質を担保するもので、ビームの動きやデバイスの移動をAI/MLで予測する。負荷分散は複数基地局の負荷を平準化する。どちらも、AIによる自動化でOPEXを削減できるほか、「人手では難しいレベルで多くの基地局を連動させたり、リアルタイム性を高めることができる」。
どのようなアルゴリズムを開発してAIを実装するかは3GPP標準化のスコープ外であり、そこでベンダー各社が競争することでイノベーションを後押ししつつ、「標準化では端末と基地局、および基地局間で行うシグナリング等の共通ルールを作る」(永田氏)ことで、AI/MLを適用しやすくする。