iPhoneからインターネットを介さずクラウドに直接アクセス
ところで、iPhoneから利用可能なこの2つのシステムには、大きな特徴がある。KDDIの広域データネットワークサービス「KDDI Wide Area Virtual Switch(WVS)」を利用し、いずれもクラウド上にシステムが構築されていることだ。
WVSはレイヤの異なる複数のネットワークを仮想的に統合し、あたかも1つの広域スイッチとして使えるようにした新タイプのネットワークサービスである。 KDDIではさらにクラウド基盤サービスもあわせて提供しており、企業はWANとバーチャルなプライベートクラウドを一体運用することできる。
霧島酒造は、社内で運用してきたシステムを順次KDDIのクラウド上に移行する計画を進めており、その第1弾として2011年8月に日報システムとグループウェア、ファイルサーバーなどを移行した。
同プロジェクトを推進する管理本部システム管理課係長の渡辺清氏は、クラウドへの移行理由を「従来は災害などで本社のシステムがダウンしてしまうと、支店の業務まで止まってしまう状況だった。震災を機にたとえ本社がダウンしても業務が継続できるインフラに切り替えることを考えた」と説明する。 BCP(Business Continuity Plan)が導入の動機だったのだ。日報システムとグループウェアをまず移行したのは、これらが本社と営業拠点である各支店で共通に使われる アプリケーションだったからである。
霧島酒造 管理本部 システム管理課 係長 渡辺清氏 |
加えて渡辺氏は、「システム管理の人員は3名体制なので、可能な限り保守管理の軽減を図りたいという考えもあった」と明かす。人件費を含めたトータルでのコスト削減が実現できているとのことだ。
また、iPhoneでの利用を最初から想定していたため、日報システムとグループウェアのデータが端末に残らない仕様を採用しているのもポイント。さらに、出先でも作業ができるよう、Officeなどのアプリケーションもシンクライアントで使えるようにしている。
導入当初、iPhoneからクラウドへのアクセスは、インターネットVPN経由で本社にいったん接続した後、WVSを介して接続する形が採られていたが、今年8月にはKDDIの携帯電話網からWVSへ直接入れる「KDDI Flex Remote Access」を採用。iPhoneから本社を介さずに直接クラウドにアクセスできるようにもした。
図表 霧島酒造の新システムの概要 |
「インターネットVPNでiPhone から接続していたときは、セキュリティ対策上、ワンタイムパスワードによる認証を加えていた。このためユーザー登録やトークンの発行などに相当の負荷がかかっていたが、Flex Remote Accessの導入でこれらの手間が不用になった」とシステム管理課の堀之内茂幸氏は話す。
霧島酒造 管理本部 システム管理課 堀之内茂幸氏 |
また、月額390円/IDでビジネスに役立つスマートフォンアプリケーションが6種まで利用できるKDDIの「ベーシックパック」も今年8月に導入。 それまで利用していたアップルの標準MDM(モバイルデバイス管理)を、ベーシックパックの中で提供されているマルチOS対応MDMに置き換えた。これによりiPhoneと別のモバイル端末の一元管理が可能となり、運用の負担も大幅に軽減されたという。堀之内氏は「システム管理者とっては、こうした環境がトータ ルで用意されている通信事業者のソリューションは非常にありがたい」と評する。
MDM(左)と営業日報システム(右)の管理画面 |
このように環境整備が進んだのに伴い、当初10台程度であったiPhoneの導入台数もおよそ30台にまで増えた。同社では、社員からの申請や端末の更改に合わせて、まだ70台ほど残っている営業部門の携帯電話についてもiPhoneに置き換えていく考えだ。
さらには、「営業部門以外の個別のシステムについても、スマートフォンでどのように使えるのか、検証を進めている」(渡辺氏)という。WVS/クラウドとiPhoneの導入を機に、霧島酒造の情報システム、そしてビジネスの姿が大きく変わり始めている。