ノキア加茂下社長「6G時代に向けて市場回復 通信事業者はAPIで収益化を」

6Gは「感じて、考えて、行動するネットワーク」になると語るノキア日本法人の加茂下社長。こうしたネットワークの実現に向けた重要なカギの1つとして挙げたのが、通信事業者のネットワーク機能を第三者に開放して収益化を図るAPIの提供だ。通信インフラ市場の今後、6G時代のネットワーク、RANのオープン化とクラウド化、IOWN、ローカル5Gなどについて、加茂下社長に聞いた。

クラウドベンダーと親密に協業

――RANのオープン化、クラウド化には、ノキアはどう取り組んでいますか。

加茂下 ノキアは、Open RANとCloud RANの具体的な展開の仕方として「anyRAN」というアプローチをとっています。

大手のチップベンダー、サーバーベンダー、クラウドベンダーと協力し、異なるチップセット、異なるサーバー、異なるクラウドであっても、シームレスに無線環境を構築できるソリューションを提供しており、すでにいくつかのお客様で実際に導入され始めています。TCOの削減に、anyRANという方法論は大変有効です。

――モバイルインフラのクラウド化は5GCで先行して進んでいます。エンタープライズの領域ではオンプレミスの比重を増やす動きも一部であるようですが、クラウド移行の流れは変わりませんか。

加茂下 ハイブリッドな形ですが、クラウドが基本になると思います。クラウド事業者とは親密に協業しており、米DISH WirelessやテレフォニカジャーマニーとはAWSと一緒に、TelenetベルギーとはGoogle Cloudと一緒に、パブリッククラウドでのコアネットワーク運用を実現しています。

――モバイルインフラ関連では、他にどんな提案に力を入れていますか。

加茂下 ノキアは日本のすべてのモバイルオペレーターに製品・サービスを提供していますが、モバイルは今や「ネットワーク」というより「ライフライン」です。

ですから、高品質かつレジリエンスなネットワークの構築に貢献していくことが、まず第一にノキアがやらなければならないことです。

そのうえで、6Gに向けて、AI、クラウド、自動化、グリーンエネルギー、APIによる収益化など、通信事業者が正しい投資を行っていくための提案をしていきたいと思っています。

例えば今、どのモバイルオペレーターも体感品質を非常に気にされていますが、体感品質を上げる方法論の1つがMassive MIMOです。ノキアのMassive MIMO無線機「Habrok」は当社独自のSoCを搭載し、従来比で電力消費量を30%削減しています。

――5Gで課題の1つとなっているミリ波については、どう見ていますか。

加茂下 ミリ波は周波数特性上、直進性が高く、電波が回り込まないため、皆さん大変苦労しています。しかし、400MHzものまとまった帯域を使えるのはとても魅力的であり、ミリ波を利用しない手はありません。ホットスポット的な使い方だったり、施設内等のクローズドなエリアでの有効活用などの動きが、これから活発になってくると思っています。

――ノキアのAIへの取り組みについても教えてください。

加茂下 一番典型的なところでは、AIによる運用自動化と業務効率向上に取り組んでいます。

ノキアには、いわゆるSON(Self-Organizing Networks)の機能である「Manta Ray」というプラットフォームがあり、問題検出や未然予防、運用効率化に、すでにAIを活用しています。また、SKテレコム、NTT、NTTドコモとは、6Gの無線インターフェースにAIを搭載し、エネルギー効率やリソースアロケーション効率の向上を図ろうという取り組みも始めています。

さらに、ソフトバンクが主導するAI-RANアライアンスにも参画しており、AIを無線の世界でどのように活用していけるのか、「AI for RAN」(AIによるRANの効率向上)、「AI and RAN」(AIとRANの処理の統合)、「AI on RAN」(RANを通じたエッジ側でのAI展開)の3つのテーマで検討を行っています。

IOWNに積極的に貢献

――ノキアはIP/オプティカルネットワーク事業も有していますが、今年6月には光通信機器ベンダーのインフィネラの買収を発表しました。

加茂下 光の重要性は高まっており、インフィネラの買収によるポートフォリオ強化など、いろいろな取り組みを進めています。米国など、政府主導のブロードバンドプロジェクトで大きな受注を獲得するなど、需要も顕著に回復してきています。

IOWN Global Forumにも主要ベンダーの1社として参加しており、Technology Steering Committeeのバイスチェア、Vision Steering CommitteeのUse Case Working Groupのバイスチェアをノキアは務めています。

あらゆるインフラがオールフォトニクスの世界になるというIOWNのコンセプトが将来的に実現する可能性は高く、そこでノキアもIOWN Global Forumに積極的に参加し、貢献しようと活動しているのです。

また、我々はモバイルオペレーターだけではなく、ケーブルテレビ会社にも光のソリューションを提供しています。例えば、愛知のケーブルテレビ会社のバックボーンを25G PONで構築しました。これにより、メタバース的なサービスだったり、ゲームをはじめとする低遅延が重要なアプリケーションを、エンドユーザーに存分に使っていただけるネットワークサービスをケーブルテレビ会社は提供できます。

――ノキアは近年、エンタープライズ市場への取り組みも強化していますね。

加茂下 ノキアはローカル5G とWi-Fiをシームレスにアグリゲートする機能を提供でき、こうしたソリューションによって、企業のプライベートネットワーク構築に貢献できると思っています。

また、先ほど紹介したネットワークAPIを利用すれば、港湾会社がローカル5Gネットワークを港に構築したとして、港に出入りする業者向けに様々なベンダーが課金しながらサービスを提供できるようになります。これにより港湾会社も収益を得ることができ、このようにローカル5Gを構築した企業が新たな収益化手段を持つお手伝いもできます。

地理的に広く、モバイルオペレーターのネットワークが使えないエリアも多いことから、海外の方が今はローカル5G/プライベート5Gは進んでいます。しかし、日本でも今後もっともっと需要が出てくるでしょう。

まだまだ通信事業者向けビジネスが大半ですが、ノキアのこれからの成長領域の1つとして、製造業などを中心に、エンタープライズ向けビジネスを一生懸命に温めているところです。

加茂下哲夫(かもした・てつお)氏

2024年1月1日、ノキアソリューションズ&ネットワークスの代表執行役員社長に就任。30年以上にわたるIT・通信業界での経験を持ち、日本IBM、エリクソン・ジャパン、モトローラジャパン、ノキア シーメンス ネットワークス、華為技術などでセールスに関わるリーダーとしての主要な役割を歴任。直近は、オレンジビジネスサービスジャパンの代表取締役社長を務めていた

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