メッシュネットワークによる広域アクセスや低消費電力での双方向通信、2kHzの超狭帯域で通信することによる高い耐干渉性・信頼性などの特徴を持つLPWAであるZETA(図表1左側)。この普及促進に取り組むZETAアライアンスには2024年8月現在で90組織が参画し、会員企業は活発に情報交換しながら新たなサービス開発に日々取り組んでいる。
図表1 ZETAの特徴と建物内ネットワークへの適性
会員社であるTOPPANデジタルの川口将和氏は「LPWAを活用した競争力のあるIoTサービスは堅実に世の中に実装され、社会課題の解決に使われつつあります」と話す。
TOPPANデジタル LOGINECT事業開発部 ZETAソリューション開発チーム 川口将和氏
最大の社会課題は、業界を問わず深刻化する人手不足だ。
14階建てビルも6台でカバー ビル管理のDXをZETAで実現
ビル管理業界の人手不足は特に深刻だ。ZETAアライアンス 理事でテクサー 代表取締役の朱強氏は、「DXによる効率化が急務」と指摘する。ビル管理は人件費率が57.7%を占める労働集約型産業であり、営業利益率は2.4%以下と低い。
テクサー 代表取締役(ZETAアライアンス 理事) 朱強氏
そこでテクサーは、ZETAセンサーを活用したスマートビルプラットフォーム「BUILDICS」を提供している。
鉄筋コンクリート造のビルでも複数フロアを電波が貫通し、少ない機器で地下を含めた全棟をカバーできるZETAの特性を、高層ビルのメンテナンスに活かしたサービスだ(図表1右側)。対応機器を既存設備に簡単に後付けできる点もビル管理のDXに役立つ。
東京・日本橋の14階建てオフィスビルの事例では、屋上に設置したアクセスポイントと、「ZETA Mote」と呼ぶ6台の中継器でビル全体のセンサーネットワークを構築。電流センサー、人感センサー、水位センサーなど合計90台のセンサーを接続し、2020年の整備以来、安定稼働を続けている。
また、別の事例に漏水検知がある。老朽化したビルは漏水が起きやすいが、発生予測は難しく、重大な事故につながるケースもあるという。
漏水を迅速に検知するため、ZETA対応の漏水センサーを配管の付近に設置。従来、平均6時間かかっていた漏水発見までの所要時間を10秒に大幅短縮し、発見から修理までの処置を約10分で行えるようになったという。さらに漏水対応にあたる人件費を40%減らしたうえ、漏水に起因する事故の件数に至っては94%減少した。
このように目覚ましい効果を挙げているのは、ZETA自体の長所や対応センサーの豊富さに加え、収集したデータを適切にBUILDICSプラットフォームで共有・管理できるからだ。
ビル管理現場では紙ベースの点検作業がいまだ多く残り、かつ多数のシステムが混在しており、データ連携が不十分であると朱氏は説明する。BUILDICSは、ZETAセンサーからだけではなく、既存のBA(ビルオートメーション)設備からのデータもIoTゲートウェイを介して収集できるため、人手による作業を大きく効率化できる。
集約したデータは外部のAI/BIツールやビル管理アプリと連携でき、可視化や分析が低コストで可能だ。
朱氏は、ビル管理のDXを「『このくらいならやってみよう』という金額で実現できます」と呼びかける。事例を増やし、サービスの価値をより高めていきたいという考えだ。