最終回は、今後のM2Mの世界において、日本国内、グローバル市場の両方でカギを握ると思われる国内プレーヤー2社の取り組み状況を概観することにする。この2社を選択した理由は、現時点の取り組み状況もさることながら、ICTの分野で純日本的な強みを堅持している点にある。
両社には今後M2Mに限らず、ICTにまつわるあらゆる分野においてグローバルレベルでのビジネス拡大が要求されている。純日本的な強み=“よい意味での”日本臭さは、通常のICTの世界におけるグローバルコンペティションでは成長阻害要因とも見なされることが多いが、少なくともM2Mの世界においてはこれこそが最大の武器になるといえよう。
M2Mの老舗「NTTデータ」
NTTデータはいわずと知れた日本最大手のSIerであり、公共、金融、一般法人向けの大規模システム開発の分野で高い実績を誇っている。
特に、日本の社会基盤とも呼べる分野においてミッションクリティカルなシステムを数多く手がけており、個別企業向けのSIビジネスはもちろんのこと、企業と企業、人と人を効果的に連携させることで初めて実現できる新しい価値を訴求するとともに、社会全体の効率性を高める領域で同社の強みが一段と発揮されていることは、衆目の認めるところであろう。
歴史的に以上のような強みを発揮してきているため、当然のことながら同社にとってM2Mは中長期的な事業戦略の面で大きな期待が寄せられている。
「各事業本部がヘルスケア、アグリビジネス、エネルギー、自動車といった領域毎にM2M関連ビジネスを推し進める一方、同社の経営企画本部内に設置されている『M2Mクラウド推進室』が全社的なノウハウの収集や組織横断的な共通機能の整備に向けた旗振りを行っている」(同社M2Mクラウド推進室担当部長の中村好孝氏)のコメントに現れているように、同領域に対する全社一丸としての意気込みと重要性がうかがえる。
また、同社がマーケット視点、社会視点でM2Mの重要性を捉えている点も見過ごせない。「メーカーがモノだけを作って世に提供する時代は終わった」「モノを作った人がサービスまで手がける/モノの提供を受けた人が新たなサービスを志向しだす」(同社第二法人システム事業本部ソリューション企画統括部長の坂本忠行氏)のコメントにも現れているように、NTTデータは日本の製造業が直面している実態やエンドユーザーサイドのニーズ・問題意識を的確に認識している。プロダクトアウト的にM2Mに取り組むのではなく、今後の産業構造の変化や彼等自身に期待されている社会的な役割をベースに目指すべきM2Mビジネスの基本思想が取り纏められている。
この基本思想をサービス提供基盤としてかたちにしたものが、同社が推進している「Xrosscloud」という仕組みだ。一見すると第2回で説明したエリクソンのプラットフォームサービス「EDCP( Ericsson Device Connection Platform)」と大差がないように見えるが、自身の位置づけとして「収集、蓄積されたデータを加工・分析して新たな付加価値情報を創出」という役割を定義している点が興味深い。
エリクソンは「つなげるために必要となる機能」を提供していくことに主眼を置いている印象を受けるが、NTTデータの場合は「つながった先にある世界の有用性」を強烈にアピールしている。
図表1 NTTデータの「Xrosscloud」(クロスクラウド)とは(クリックで拡大) |
このサービス提供基盤は、各界における導入実績をベースに作り上げられたものであるため、現時点において万全なプラットフォームというよりは、目指すべきコンセプトに向かって現在も進化中というのが正直なところと推察されるが、同社の本質的な強みはこのようなプラットフォーム機能の存在もさることながら、長年各界の大規模情報システム構築で培われた「プロジェクトマネジメント力」にあるという点にも言及しておかねばならない。
図表2 Xrosscloudのサービスイメージ |
今後日本の製造業やICTプレーヤーが海外市場まで見据えてM2Mに取り組むうえで、技術的な難易度の克服に加え、多様なプレーヤーとの効果的な連携が重要なポイントとなる。その際に求められるのは、各ステークホルダーの利害や思惑を一致させ、あらゆるリスクを想定したうえで目指すべきサービスの実現に向けて一大プロジェクトを回し切るプロジェクト管理能力だ。
このような“組織能力”は一朝一夕で醸成されるものではなく、確固たる実績に裏打ちされた企業のみが成果を発揮できる。この点における同社の強みは、今後期待される斬新な成功事例の創出とグローバルへの適用において非常に大きな役割として発現されるはずだ。