「スマートハウス」に重点
次に、スマートハウスの現状と可能性について述べていこう。日本では米国に先駆けてスマートハウスのサービス競争が激化するという予想もある。両国の電力インフラの現状と取り組みに差があるためだ。情報通信総合研究所のマーケティング・ソリューション研究グループの新井宏征副主任研究員は次のように話す。
「電力事情の悪い米国では、スマートグリッド関連予算の割り振りもインフラ側に重点が置かれている。対して、電力が安定供給されている日本ではエネルギー自給率の改善、『CO2削減25%』目標の達成に向けた電力使用の効率化が重視されている。米国などに比べて、家庭やビルにおける電力の新しい利用法、つまり『スマートハウス』に重点が置かれていくだろう」
図表3は、スマートハウスのイメージを示したものだ。電力会社や通信会社、あるいはサードパーティ事業者が家電等を制御するプラットフォームを利用してアプリケーションの配信、サービス提供が行える。
図表3 スマートハウスの概念図 |
ここで重要なのは、スマートハウスとスマートグリッドの連携が必須要件ではないことだ。電力会社以外の事業者が設置するゲートウェイやホームサーバーを経由して誰でもHEMSや家電制御などのサービス、アプリケーションが提供できる。
「スマートメーター」あるいは「ホームサーバー」など呼称は異なるものの、情報家電を束ねる制御プラットフォームを誰が握るのか。当面は、この競争が焦点になりそうだ。
通信キャリアをはじめ、その担い手になり得る存在は多い。NGNのホームゲートウェイがその役を担うことも可能だろうし、家電メーカーが進める情報家電連携がスマートハウスへと発展する可能性も大いに考えられる。
ICT・家電・住宅産業が凌ぎ
また、住宅メーカーも当然ながら、意欲的な取り組みを進めている。
大和ハウス工業はスマートハウスの実証実験を行っている(図表4)。スマートメーターの役割を果たす「ホームサーバー」にはJavaモジュールの動的追加や実行を管理するOSGiを実装。情報家電を制御する通信ミドルウェアと「住宅API」を開発した。
図表4 大和ハウス工業の「スマートハウス実証実験」(クリックで拡大) |
エネルギーの効率化を実現するには、電源のON/OFFといった単純な制御だけではなく、ネットワーク経由で家電のステータスを取得し、例えばエアコンの温度・風量を微調整するといった細かな制御が求められるが、下の写真のようにこれをiPhoneアプリから行うことも可能だ。
大和ハウス工業のスマートハウス実証実験のデモ。iPhoneアプリ上で家電のステータス取得・制御ができる。警備用設備の制御も可能だ。また、玄関先に設置したフォトフレームからタッチパネル操作で家中の設備を一元的に管理できる。デジタルサイネージのように情報や広告の配信も可能という |
同社・総合技術研究所フロンティア技術研究センターICT研究グループの吉田博之主任研究員は、今回の実験について「サービス事業者が参入しやすい仕組みを作ることがコンセプトだった」と語る。
「メーカーをまたぐ家電の連携は、中立的な住宅メーカーがまとめることで実現できる。サービス事業者も参入しやすい形を作れば、ユーザーのメリットも大きくなる。住宅の付加価値向上につながるし、プラットフォームの管理でストックビジネスができる可能性もある」
政策の後押しもあって、住宅向け太陽光パネルの設置率が順調に伸びるなど、家庭における「エコ」のニーズは高まるばかりだ。この機運を背景に、サービスプラットフォーム構築を巡る競争に加え、サービス開発・提供も加速するだろう。
スマートハウスは、電力、家電、住宅、そしてICT業界を巻き込んだ一大ビジネスとなる可能性を秘めている。