スマートグリッドでICT業界に生まれるビジネスチャンス

環境対策の重要性が高まり、ICTを活用してエネルギー使用を効率化する新技術、サービスが次々と生まれている。なかでも注目が集まるスマートグリッドとICT業界とのかかわりについてレポートする。

中核は“賢い”メーター

スマートグリッドの構成要素をまとめたのが図表2だ。「電力層」「通信層」「アプリ層」の3層に分けることができる。アプリ層においては、メーターの遠隔検針やデマンドレスポンス、家電の遠隔制御、分散電源、エネルギーマネジメントシステム(EMS)などが想定されている。通信層では図中に示した通り、「インフラ」(送電~配電)と「消費者」(家庭・ビル等)の領域で多彩な通信方式が検討されている。

図表2 スマートグリッドの構成要素(クリックで拡大)
図表2 スマートグリッドの構成要素

利用するアプリケーションによって通信方式に求められる要件は当然異なってくる。重要なのはやはりコストだ。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新エネルギー技術開発部系統連系技術グループ主任研究員である諸住哲氏は、次のように語る。

「(スマートグリッドのアプリケーションのためだけに)光ファイバーを使えば、その通信コストで太陽光発電のメリットは吹っ飛ぶ。通信料の低下と新エネルギーの付加価値向上の両方の条件が揃わなければ、スマートグリッドは使われない。重要なのはどのようなサービスを提供するかであり、通信方式との組み合わせによって採算が取れるものから普及していくことも考えられる」

インターネットアクセスなどに利用しているFTTHなどに相乗りできれば、コスト面での課題は解消しやすいだろう。

さて、図表2からもわかる通り、スマートグリッドで実現するアプリケーションはインフラ領域と消費者領域に分けられる。インフラ側では遠隔検針や送電・配電の自動化、再生可能エネルギーと既存発電との協調制御などが、家庭・ビルでは電力使用量の見える化や、家電の遠隔制御などのサービス提供が可能になる。

中核部品となるのは、言うまでもなくスマートメーターだ。概念上はこのスマートメーターを境界として、インフラ側をスマートグリッド、消費者側(に提供するサービス)を「スマートハウス」と表現することが多い。以降は、この2つに分けて現在の動向を述べていくことにする。

胎動する巨大インフラビジネス

次世代インフラの整備は、国内でも電力各社がすでに取り組みを進めている。関西電力が2008年末頃から通信機能付き新型メーターの設置を開始。これを先駆けとして九州電力や東京電力なども相次いで電機メーカーとともにスマートメーターの開発・設置を進めている。現時点では遠隔検針による業務負荷軽減が主目的だが、将来的には発電量調整や宅内機器の遠隔制御が想定されているようだ。

スマートグリッドの実現に向けては送電網側にも新機器の導入が進み、世界規模で巨大な市場が形成されていくのは間違いない。そのため、グーグルやIBM、シスコシステムズといった米IT大手も参入。国内でも2月末に、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が富士電機と合弁でスマートメーターの開発・生産を行うと発表した。GEはスマートグリッドに必要な変圧器やケーブル等の機器開発も手掛けており、両社は国内でインフラ構築の関連事業を広げていくものとみられている。

また、標準化の動きも加速している。中心は米国だ。これを睨み、2010年度から米国で本格スタートする実証実験には日本企業も多数参加する。NEDOが推進するニューメキシコ州での日米共同実証プロジェクトには東芝、日立製作所、京セラなど31社が参加。3月の事前調査を経て4月から本格的な実証実験を開始する。郡・市単位で、集中型蓄電池の運用方法、新エネルギー対策技術の検証などを行う予定だ。また、スマートハウスの実証研究も行われる。

NEDOの諸住氏は、「スマートグリッド関連技術で存在感を出し日本に流れを引き寄せるためにも、このような早い段階でアイデアを実践し、それに関わる権利を抑えておくことは非常に大切」と語っている。

月刊テレコミュニケーション2010年4月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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