携帯電話事業者が、MEC(Multiaccess Edge Computing)の展開に本腰を入れ始めている。
端末の近くに分散配置されたエッジサーバーでデータを処理・分析するMECは、クラウドと比べて通信距離が物理的に短くなるため、処理した結果をより低遅延で返すことができる。また、クラウドとの通信量が必要最小限に抑えられてネットワークの負荷が軽減されるほか、インターネットに出ることなく通信が完結するのでセキュリティを確保しやすい。
これらの特徴から、5Gと組み合わせることで、重機の遠隔操作、遠隔作業支援、遠隔診療など、リアルタイム性やセキュリティ性が求められるユースケースも実現可能となる。
「MECと5Gの組み合わせは、電波の届きやすい屋外で0.1秒でも遅延をなくしたい用途に強みを発揮する」と話すのは、NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 開発オペレーション部門長 兼 5Gサービス部門 第四グループ 担当部長の西田卓爾氏だ。
NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部
5G&IoTサービス部 開発オペレーション部門長 兼5G サービス部門 第四グループ 担当部長 西田卓爾氏
同社は2023年9月より、関東鉄道やコシダテック、ヤシマキザイとともに、関東鉄道・常総線 守谷駅~新守谷駅間の海老原踏切道(茨城県守谷市)において、踏切事故の未然防止に向けた実証実験を行っている(図表1)。
図表1 「踏切内AI滞留検知システム」による実証実験のイメージ
鉄道運転事故のうち踏切事故は約4割を占め、また踏切事故の42.9%が歩行者の渡り遅れに起因する。踏切事故を防ぐには、自転車やベビーカー、車イス、それらの帯同者といった小さな物体検知精度の向上が必要だ。
実証実験では、踏切付近に取り付けた市販のネットワークカメラの映像を5Gで「docomo MEC」に伝送し、AIで解析を行っている。より現場に近いMECで映像を解析して線路内に滞留する物体をリアルタイムに検知し、接近する列車の運転士にアラート通知することで事故の未然防止につなげたいという。
5G+MECの有力な商材も生まれている。その1つが、AI顔認証プラットフォームを搭載した可搬型セキュリティゲート「AI顔認証モバイルゲート」だ(図表2)。
図表2 「AI顔認証モバイルゲート」のイメージ
AI顔認証モバイルゲートは5Gとdocomo MECの活用により、大規模なイベント会場など期間限定の設備でも利用することができる。あらかじめ登録しておいた顔写真データを用いて認証することで、チケットやQRコードなどをかざさずに入場することが可能。従来型のシステムと比べて、顔検出からゲート開扉までに要する時間が約46%削減され、ゲートを通過できる人数も1分あたり23%増えるという。