NTT、NTTドコモ、NECの3社は2023年10月31日、複数の基地局アンテナを分散配置する40GHz帯分散MIMOにおいて、複数の端末が移動しながら同時に同一周波数チャネルで無線伝送する場合(マルチユーザー伝送)でも、静止時と同じ伝送容量を実現する実証実験に成功したと発表した。
3社は無線通信のさらなる高速・大容量化のために、ミリ波帯やサブテラヘルツ帯の移動通信への活用を研究してきた。こうした高周波数帯は遮蔽物による電波の減衰が大きく、その対策として各無線端末に対し複数の分散アンテナから無線伝送する高周波数帯分散MIMOシステムは有力な解決手段の1つだ(参考記事:5Gミリ波の普及へ前進! NTTとNECが遮蔽物を避ける分散MIMOの実証に成功|BUSINESS NETWORK)。
高周波数帯分散MIMOは分散アンテナの数だけの無線端末に対してマルチユーザー伝送が可能だが、一方で移動する無線端末に対する干渉抑制が技術的課題だったという。
そこで今回の実証実験では、高周波数帯で使用される狭いビームだけで無線端末間の干渉抑制を可能とするマルチユーザー伝送技術を開発し、移動する無線端末に対して静止時と同じ無線伝送容量を実現した。
狭いビームを活用したマルチユーザ伝送技術
具体的な実験内容は次の通り。実験は29メートル×15メートルの広さで、柱が4本存在する実験室で行った。国内での5Gミリ波の28GHz帯よりもさらに高い周波数帯である40GHz帯を使用する実験機を用い、その他の物理仕様は5G NR(New Radio)に準拠した信号帯域100MHz、サブキャリア間隔60kHzのOFDM方式。基地局装置は長さ20メートルの同軸ケーブルで複数の分散アンテナを接続した。分散アンテナは図中1~14の位置に最大14台設置し、無線端末は、前後左右の最大4面方向に4アンテナを装備し、図中の経路上を台車で移動させた。使用する無線端末数は4台、1無線端末あたりの同時伝送ストリーム数は2。無線端末は4アンテナから受信レベルの高い2アンテナを選択し、この2アンテナ間はMMSE(Minimum Mean Square Error)受信処理を行った。
実験エリアと実験系の概観
広いビームと干渉抑制の従来技術(プリ・コーディング)を適用した場合、静止時と比べて、移動速度3.3km/h以上で無線伝送容量が10分の1に劣化としたという。一方、今回開発した技術では移動速度3.3km/h以上でも静止時の無線伝送容量が維持され、端末1台の場合と比較した無線通信速度の劣化を27%に抑えることができたという。また、狭いビームにプリ・コーディングを適用すると、静止時は無線伝送容量が向上し、端末1台の場合とほぼ同じ無線伝送容量が実現したとしている。
実験結果(従来技術と技術1の1無線端末あたりの無線伝送容量の比較)
またNECは、無線端末の移動先を予測することで遮蔽による無線品質劣化の発生を予測し、事前に最適な分散アンテナを選択する技術を基地局の分散アンテナと選択する技術を確率している。今回、この技術を無線端末のアンテナの両側においてアナログビームフォーミングを行う分散MIMOに拡張し、無線品質の劣化が発生する前に最適な分散アンテナとビームを選択する技術(技術2)を開発し実証したことも合わせて発表した。
マルチユーザー伝送技術と同様の実験環境で分散アンテナ14台を用いて行った実験では、従来技術に比べて受信強度は9dB程度改善、受信強度の劣化は4dB程度に留め、高周波数帯で懸念される切断の回避が可能であることを確認したという。
実験結果(従来技術と技術2適用時の各々の相対受信強度特性)
今後、これらの技術を多数の移動する無線端末が密集するイベント会場や工場、遮蔽物の多いショッピングモールや道路近辺などの実フィールド環境で実証実験を行っていくという。また、6Gでは40GHz帯より高い周波数帯による超高速・大容量通信が期待されているため、分散MIMOの適用周波数の拡大も検討していくとしている。