大学時代は数学科
「数学の魅力は、やはり美しいこと。とても難しい証明問題も、場合によって、ものすごくシンプルに美しく解くことができます」
大学・大学院で、数学を学んだ鴨田。「博士号を取りたい」という希望を持っていたが、数学で博士号を取るのは非常に難関だ。社会人ドクターを目指せる研究職の道を探る。
数学科の仲間の多くは金融系の会社に就職するなか、鴨田が惹かれたのはコンピューターの世界だった。当時、インターネットが社会を本格的に変化させ始めていた。
「数学科には暗号技術を研究する研究室もありました。それでコンピューターの中でも、セキュリティが特に数学が役立ちそうと考え、セキュリティの研究ができるかもしれないシステム開発の分野を志望したんです」
いくつかの内定先から選んだのは、面接官とのウマの「一番合った」というNTTデータ。入社後、研究職に就けるかどうかは「完全に賭けだった」というが、希望通りセキュリティに関する研究開発を行う部署に配属された。
研究職の時代には、ニューラルネットワークを活用した不正アクセス検知、ICカードのセキュリティ設計、数学の論理式を使って設計書を書くことでバグのないプログラミングを行うフォーマルメソッドなどに没頭。その間、博士号(工学)も取得した。
若手と呼ばれる時期を過ぎると、鴨田はこれまで経験してきた研究開発とは異なる、新しい挑戦の機会も次々と与えられるようになる。だが、ドイツ行きのときのような抵抗感はなかった。
変化は楽しむものと、すでに知っていたからだ。
2度の経産省出向と120点の成果
セキュリティのコンサルティングや内部監査、そしてコンサルチームや営業チームのマネジメントなど、様々な経験を積んでいく鴨田。
経済産業省にも2度出向した。1度目は入社から10年ほどが経った2010年頃のこと。ソフトウェア政策に携わった。
「当時はクラウドが注目を集め始めた時期。日本のクラウドビジネスをどうやって伸ばしていくのか、国内にデータセンターをどう設置していくのかなどの政策に関わりました」。出向期間が終わりを迎える頃に発生したのが東日本大震災。一定の要件を満たしている重要データセンターを電気事業法第27条に基づく法的拘束力のある「電力使用制限」の対象から除外するための省令作成にも尽力した。
2度目は2019年7月~2021年6月の2年間だ。商務情報政策局 サイバーセキュリティ課の企画官を務めた。企画官は、課長に次ぐ職務。まさに日本のセキュリティ政策の中枢を担った。
重要インフラや中小企業のセキュリティ政策の立案から、経産省所管の企業でインシデントが発生した際の対応策の協議、議員へのレクチャー、国会での大臣へのメモ出し役など、官僚として再び充実した2年間を過ごした鴨田。
「国家の視点から、セキュリティの課題解決策を政策に落とし込んでいく仕事です。『少しでも手を抜いた仕事はできない』という緊張感は常にありましたが、非常にやりがいがあり、楽しかったですね。民間企業の立場では絶対に聞けない話が聞けたり、自分の視野を一気に広げる機会にもなりました」
その一方で、「謝罪し続ける」という仕事も経験した。
事業採算性の問題から、あるセキュリティ関連サービスの提供終了を決定。既存顧客に対して謝罪を行うと同時に、他社サービスへの移行を案内・サポートするというのが、鴨田に任された仕事だった。
「謝罪のため、全国を行脚しました。そのサービスへの信頼が高かったこともあって、サービス終了を簡単に受け入れてくれるお客様はほぼいません。しかし、謝罪し続けることで、最終的にすべてのお客様からサービスを停止することに合意いただけました」
鴨田が仕事において強く意識していることの1つが「120点の成果」である。
「セキュリティの技術は難しく、お客様自身も『何をすればいいのか分からない』ということはよくあります。にもかかわらず、言われたことだけをやっていては、お客様に絶対に満足して頂けません。お客様の要望の背景を理解し、お客様が求める以上の“120点の成果”を出し続ける必要があります」
世界第2位のセキュリティビジネスのさらなる成長へ
鴨田の趣味の1つは折り紙。
多面体の折り紙が好きだという
冒頭に紹介した通り、鴨田は現在、サイバーセキュリティ技術部の技術部長として、社内および顧客向けのセキュリティの両方を統括する立場にある。その鴨田に最も求められていることは、NTTデータグループのセキュリティビジネスのグローバルでのさらなる成長だ。
NTTデータグループは今、マネージドセキュリティサービス市場において、売上高で世界2位のポジションにある(出典:ガートナー「Gartner Market Share Analysis: Managed Security Services, Worldwide, 2022」)。目指すは、さらに1つ上への変化。そのために鴨田は、MDRサービスのグローバルでの成長戦略の立案と実行に力を注ぐ。
NTTデータグループのMDR(Managed Detection and Response)サービスは、インシデントの未然防止から発生時の被害最小化までをカバーするセキュリティ運用のアウトソーシングサービスだ。2023年7月からの国内提供を皮切りに、グローバル展開を進めている。
その特徴は大きく2つ。1つは、長年にわたる実績を誇るNTTデータグループのCSIRT組織によるインシデント対応だ。20年以上にわたり、世界各地でインシデントに対応してきた。鴨田自身も重大インシデントの対応経験を持つ。「自ら泥臭くインシデントに対応してきた人材が数多くいる世界最大規模のCSIRT組織です」
2つめは、世界最大規模のゼロトラスト環境をグローバルで運用してきた実績だ。NTTデータグループ全体の従業員は56カ国・地域に約19万人いるが、グローバル全体にゼロトラスト環境を導入して運用している。その現責任者が鴨田であり、これで培ったノウハウをMDRサービスを通して全世界の企業に提供していこうとしている。
「変化は止められません。であれば、変化をどう楽しむか」
鴨田の趣味は折り紙である。数学好きの鴨田らしく、折るのは多面体の折り紙。海外出張時には、機内で折って海外の同僚へのお土産にする。将来、折り紙を商売にできないかとまで考えているそうだ。数学の塾講師をするのも将来の夢の1つ。変化を楽しみながらも、軸そのものは最初からブレていない。
大量の折り紙を組み合わせることで多面体ができあがる
MDRサービスを支える高度セキュリティ人材を育成するための教育プログラムなど、後進の育成も重要な役割となっている鴨田。
「変化は止められません。であれば、変化をどう楽しむか――。自分が与えてもらったように、新しいことにチャレンジできる機会を後進にもどんどん提供していきたいです」と笑顔を見せた。
<お問い合わせ先>
株式会社NTTデータグループ
URL:https://www.nttdata.com/jp/ja/services/security/