通信事業者は「What」から「How」へ転換を 三菱総合研究所 伊藤陽介氏

「5G後進国」との揶揄も聞こえるようになった日本の5G状況。だが、三菱総研の伊藤氏は「5Gシフトに遅れているとは思わない」と語る。ただ、日本の通信業界には、不足している部分もある。

三菱総合研究所 デジタル・イノベーション本部 ICTインフラ戦略グループ 伊藤陽介氏

三菱総合研究所 デジタル・イノベーション本部 ICTインフラ戦略グループ 伊藤陽介氏

――世界の5Gの趨勢はどうなっているのでしょうか。

伊藤 5Gの商用サービスは、2023年3月時点で97カ国/240事業者により展開されており、順調に商用化が進んでいます(GSMA調べ)。5G基地局の観点から見ると、韓国・中国・ドイツの3カ国のSub6基地局数は、4Gを含む基地局全体の概ね半数以上を占めています。ミリ波基地局数は、先行する米国が多いです。また、大きくマネタイズできているとは言えませんが、米国やフランス等は4Gと5Gの料金体系を分けることで収益化しています。(図表1)。

図表1 主要MNOにおける4Gプラン・5Gプランの差異

図表1 主要MNOにおける4Gプラン・5Gプランの差異

――日本は5Gシフトに遅れているという指摘もあります。

伊藤 捉え方にもよりますが、諸外国と比べ、日本が5Gシフトに遅れているとは思いません。先の基地局数は人口あたりでみると日本は上位であり、また日本の5Gによる人口カバー率は90%と、諸外国と比較しても遜色ないレベルにあります(図表2)。日本は高品質な4Gサービスが整備されているため、5Gとの差別化が図りにくいのだと思います。ただ、5Gを利活用する側のユーザーと通信事業者の間にまだ距離感があると感じます。BtoBの場合、海外の通信事業者は、手を組む業界・業種のターゲティングが一歩進んでいるように見えます。例えば、ネットワークスライシングの導入の背景として、製造業や自動車産業といった基幹産業との対話も進んでいます。ユーザー企業も要件定義が多様であるため、通信事業者は自ずとユーザー企業との連携を深めていくことになります。一方、日本の場合、通信事業者各社が自分たちでビジネスを模索している印象を受けます。ユーザー企業側もSIer等に委ねるのではなく、これまで以上に両者が連携し、設計度合いを深めていくことが重要です。

図表2 5Gによる人口カバレッジ

図表2 5Gによる人口カバレッジ

――まだ5Gによる革新を目撃する機会はありませんが、我々が5Gに過度な期待をしていたのでしょうか。

伊藤 5Gのユースケースやそれを実現するソリューションは多く出てきています。にもかかわらず実際にイノベーションが起きていないのには理由があります。「What」ではなく「How」が不明瞭なのです。5Gの「大容量・低遅延・多数接続」という技術的特徴の理解は徐々に進んでいますが、ユーザー側のサプライチェーンを含めどうビジネスに取り込んでいくか、その説得材料となる導入効果が明確にならないと、既存のオペレーションに変革をもたらすことは難しいと思います。

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