前章までで、ソーシャルテクノロジーのひとつである社内SNSが企業に浸透し、活用されている例を見てきました。ここでもう一度、我々、個々人が持つ「知識」にはどのようなものがあるか振り返ってみましょう。
働く人は誰でも、「仕事中の自分」(Onの私)と「プライベートの自分」(Offの私)の両面を持っています。
「Onの私」とは、「この業界で10年の営業経験がある」「米国公認会計士の資格を持ち、会計の知識は一通り持っている」「前職はアパレル業界だったので服飾関係の業務の流れはきちんと理解している」といったビジネスパーソンとして仕事をする上での“私”を示しています。企業における「ナレッジマネジメント」(知識管理)の取り組みは通常、このOnの私にフォーカスし、社員個人の知識や人脈、ノウハウを組織として共有化することに力点を置いています。
一方の「Offの私」は、「42歳で2児の父親」「3年前に都内に持ち家を買った」「小中高と野球部で一貫して大の阪神ファン」「最近は自転車にも凝っていて、週末はロードバイクで遠出をするのが楽しみ」といった、仕事とは関係がないプライベートな“私”を示しています。このOffの私にフォーカスしたものが、コンシューマー向けSNSであるmixiのようなサービスです。mixiでは膨大なユーザーが自分の趣味や家族、日々の出来事、思ったことなどOffの私を公開し、現実には知り得なかった人と知り合う、という“化学反応”を起こしています。
「個人の知識」は、Onの私とOffの私、双方の知識から構成されています。つまり、「個人の知識」=「Onの私の知識」+「Offの私の知識」であると言えます。
例えば、営業職であるOnの私は当然、見積もり方法や契約手続き、ビジネスマナーなどを知識として身に付けているでしょう。一方、少年時代から大ファンだった阪神タイガースの今までの戦歴や名試合、現在の有望選手等のOffの私が持つ知識も、同じ“私”のものです。
この個人の知識は、“私”が生まれて故郷の町で少年時代を過ごし、友人たちとともに過ごした学生時代を経て、社会人として生活する中で、少しずつ“私”の中に蓄積されてきた唯一無二のものであるはずです。人に自我や異なる関心領域があり、異なる人生を歩んでいる以上、誰一人として自分と同じ「個人の知識」を持つ人は存在しません。
前章までで述べてきたNTTデータの「Nexti」による“化学反応”は、一人ひとりが持つ個人の知識全体を公開・共有する“場”が作られたことで起こりました。今まで意識的あるいは無意識に使われていたOnとOffの私の使い分けを、「同じ会社の一員である」という安心感を起点にして取り払ったと言えるでしょう。
それでは、個人の知識の全面的な共有は企業活動にどのような変化をもたらし、それは従来の企業活動とどのように異なるのでしょうか。
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