NTT東日本とNTTアグリテクノロジーは12月20日、NTT中央研修センタで『ローカル5Gを活用した遠隔農作業支援』実施状況報告会を開催した。センタ内の農業ハウスではスマートグラスやドローンを活用したデモンストレーションも行われ、NTT東日本グループが実装に取り組む農業技術の事例が紹介された。
スマートグラスを装着し栽培作業を行う担当者
「稼げる農業」への転換目指す
このプロジェクトは、近年縮小する東京都内の農業を「稼げる農業」へ転換することを目指し、NTT東日本グループと東京都が連携し推進している。東京都 産業労働局 農林水産部部長の山田則人氏は、東京の農業が農地面積、従事者、生産高の減少に直面している中、いかに狭い農地で稼ぐ農業ができるかに取り組んでいることを紹介。今回の発表は途中経過としながら、「都民に東京の農業とはこういうものだと知って欲しい」と話した。
また、東京都 農林総合研究センター(農総研) 副所長の松川敦氏は、「スマート農業は北海道に代表されるような大規模なものがイメージされるが、それに対して東京は小規模・分散し、担い手が減少している」と課題を述べた。その上で、「この取り組みを始めて3年となるが、非常にいい実績が出ている」と手応えを語った。
食料安全保障と環境配慮に貢献
NTTアグリテクノロジー 代表取締役社長の酒井大雅氏は、このプロジェクトには2つの特徴があると強調した。(参考:広がる農業エコシティ 一次産業がスマートシティの入口に)1つは、食料安全保障の問題解決に直結する可能性があることだ。地政学的リスクが高まる中、農業の担い手を支援するため、技術継承が重要だとした。
もう1つは環境への配慮だ。農業は比較的環境負荷の高い産業だが、遠隔支援による移動削減や地元と一体となった資源循環により、環境配慮を実現するというメッセージを発したいという。「遠隔農業だけでなく、裏側にはそれより一段高い目標がある。最大自治体としての東京都と社会的役割の大きいNTT東日本が連携し、全国に向けて啓発していく」と、国家規模、地球規模の課題解決に向けた意気込みを述べた。
NTTアグリテクノロジー 代表取締役社長の酒井大雅氏
農業の“勝ち筋”を探る
続いて、NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 担当課長の中西雄大氏がプロジェクトの概要を説明した。
同プロジェクトでは、センタ内の「ローカル実証ハウス」と立川市の東京都農林総合研究センターをつなぎ、遠隔で技術指導を行う。実証ハウスに設置された4Kカメラ、走行型カメラ、作業者装着のスマートグラスが、センタ内に敷設されたローカル5Gアンテナを介し高精細映像を伝送する。農総研では、栽培に専門的知見を持つ職員が映像を閲覧し、カメラを遠隔操作したり作業者にアドバイスを行ったりする。この仕組みによって、未経験者でも失敗なく栽培ができるか、技術指導の効率化や高品質化を計れるかが実証のポイントだ。
NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 担当課長の中西雄大氏
この取り組みの背景の1つには、前述のとおり生産者の減少がある。サポート体勢を強化することで経営体数を維持し、ひいては新規就農者の参画を目指す。もう1つは、技術指導にかかる人手不足の解消である。指導者は年々減少し、かつ高齢化している。特に東京は小規模な農地が分散しているため、移動の負担を軽減し効率化を図る必要がある。これらの日本固有の課題に加え、円安や紛争などグローバルな問題の双方の影響を受け、食料安全保障上のリスクが顕在化している。中西氏は、その中で「勝ち筋を作っていきたい」と述べた。
酒井氏は報道陣の質問に答え、「(遠隔農業を)2023年度内には部分的にも世の中に出したい」とし、来年度中の商用化への意欲を見せた。
実証ハウスでのデモでは、ドローンの遠隔操縦と、スマートグラスを用いた遠隔指導が紹介された。