<特集>5G時代の未来シティ広がる農業エコシティ 一次産業がスマートシティの入口に

地元の基幹産業である一次産業を入口にICTで街を変えていく取り組みが広がり始めた。山梨市は農業向けのLPWAを防災や見守りなどにも活用。小菅村は林業向けのLPWAを観光などにも活かそうとしている。

日本は中小規模の自治体の集まりと言っていい。1700余ある市町村のうち人口10万を超えるのは約250、人口5万以上も約500しかない。予算や人が潤沢な街は一握りに過ぎず、“スマートシティなんて他人事”と考える人も少なくないはずだ。

そんななか注目を集めているのが人口3.5万の山梨市だ。農業IoTを起点に自営LPWAネットワークを構築。農作業の効率化と質向上を実現しながら自営網の規模とユースケースも徐々に拡大し、防犯対策や防災、福祉など市が抱える様々な課題解決へと用途を広げている(図表1)。

図表1 農業を起点としたスマートシティの取り組み(山梨市)

図表1 農業を起点としたスマートシティの取り組み(山梨市)

この取り組みで、自営網やIoTシステムの構築を担っているのが、NTT東日本とNTTアグリテクノロジーだ。NTTアグリテクノロジーの酒井大雅社長は「農業のために作ったICTインフラをマルチユースに使っている。自治体が自助財源で複数年にわたり継続的に活用、発展していることが各方面から評価されている」と話す。

同社はICTを活用した農業を専業とする会社として2019年に設立。全国で地域との協働プロジェクトを進めており、山梨市と同様の例が続々と出てきているという。

NTTアグリテクノロジー 代表取締役社長 酒井大雅氏
NTTアグリテクノロジー 代表取締役社長 酒井大雅氏

農業を入口に地域の力を結集「大切な基幹産業を守り育てるため地域の皆さんが集まり、当事者意識をもってやる。そのポテンシャルはものすごい」と、酒井氏は一次産業の課題解決をスマートシティの入口にすることの可能性を強調する。

山梨市はまさにその好例だ。

きっかけは、ブドウや桃の栽培に壊滅的な被害をもたらした2014年の豪雪だった。復興を目指すにあたり、収益性の高いシャインマスカットの栽培に乗り出した。経験のない農家を支援するため、環境センサーで圃場の状態を遠隔監視し、JAの営農指導に供するためLPWAの自営網を構築。今では、シャインマスカットの一大産地となるまで成長した。2020年からは図表1のように、この自営LPWA網を基盤として防災対策、福祉分野での取り組みも始めている。

人口13万人の千葉県木更津市も、同じような道筋を描いている。

こちらのきっかけは獣害対策だ。農作物を荒らす猪を捕獲するための罠の稼働を、IoTセンサーとカメラを用いてモニタリングするためにLPWAの1つである802.11ah等で自営網を構築した。見回りの稼働削減のほか、出没地域の把握、生態観察による捕獲率の向上に貢献。捕獲した猪をジビエ加工して新産業を育てようともしている。

また、2019年9月に房総半島を襲った台風で山間部の連絡が途絶した経験を踏まえて、LPWA網を使って山間集落・避難所の安否確認を行う仕組みの検証も開始した。子どもの通学時の見守りなどにも活用する。

月刊テレコミュニケーション2021年4月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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