R17に非常時ローミング機能
2つめは、現在日本で議論が活発化している非常時の事業者間ローミングに関する機能だ。実は、2022年に策定が完了した5Gの最新仕様であるR17に組み込まれている。名称は、MINT(Minimization of Service Interruption)だ。
これは、ユーザーが通常利用している事業者のサービスが災害等で利用できない場合に、他事業者へ一時的にローミングできるようにする機能である。事業者Aが被災し、その加入者の端末が事業者Bに接続するまでの過程を示したのが図表3だ(以下は、NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol.30の解説を参考に記載)。
図表3 MINT(Minimization of service Interruption)による災害時ローミングのイメージ
事業者Aはあらかじめ加入者の端末に対して、災害時に使用する事業者のリストを配布しておく。
Aは、自社インフラが被災したことを加入者端末に通知できないため、Aの被災を認識した他事業者Bがその旨を報知する。知らせを受け取ったAの加入者端末は、前記のリストの中から、非常時ローミングの受け入れ先を選択してアクセスする。
ただし、被災地域でこのMINT機能を実行すると、ローミングを受け入れた事業者にアクセスが殺到する恐れがある。そのため、端末ごとにランダムな待機時間を設定し、同時アクセスを防止。これにより、事業者Bの過負荷を回避する。
被災していた事業者Aのネットワークが復旧してローミングが不要になれば、BはA加入者の端末の接続を解除。ローミングを行っていた端末がAに復帰する際にも同時アクセスによる過負荷を避けるため、待機時間を経た後に基のネットワークへ接続する。
エリクソンは実装を検討中
このMINT機能は3GPP R17においてオプショナル機能と位置づけられており、実装は通信事業者とベンダーの判断に任されている。利用する場合には、事業者は配下の端末に利用の可否を設定する。また、当然ながら、MINTの利用には事業者間での協定が不可欠だ。
R17の仕様は2022年春に凍結されたばかりで、今後、キャリア向けベンダーのソリューションや、5G対応端末にR17の新機能が実装される。エリクソンは「本機能の標準化はサポートしており、実装については鋭意検討中だ」(藤岡氏)。
KDDIの大規模障害を引き金に始まった総務省の「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」では、緊急呼のみのローミングや、デュアルeSIMを使用した端末側の対策による非常時ローミングなど、様々な手段を含めた議論が行われている。2023年以降にR17仕様の実装が進めば、このMINTの利用も検討の俎上に載るはずだ。
(月刊テレコミュニケーション 2022年12月号より転載)