<特集>モバイル強靭化モバイルアーキテクチャの最新議論 ローカル5Gを実験場に

大規模な通信障害は今や疫病や自然災害と同じように社会生活を脅かすものとなった。5G、そしてBeyond 5Gをライフラインにするため、今こそ大胆なアーキテクチャ変革が必要だ。最新のトレンドを紹介する。

AMFでスライス効果を検証

同研究室が提案した手法は、端末(UE)からの制御信号トラフィックを扱うためのリソースを、一定のグループやサービスごとに独立化することで品質を担保するというものだ。

現在のモバイルネットワークは、制御プレーンの負荷が高まったときに、ネットワーク機能(NF)ごとにリソースをスケールアウトすることで輻輳を回避するのが基本。対して、制御プレーンスライシングは、「ボトルネックになりやすいNFに優先制御のシステムを実装し、処理するためのリソースを端末ごと、グループごとなどに分離することで、特定の端末の接続処理を優先的に行う」(中尾氏)。まずはカスタマイズ可能なローカル5Gシステムで効果を実証した後、「次世代の標準化提案へつなげていきたい」という。

中尾研究室が先ごろ行った検証では、多数接続時において頻繁に輻輳が起こるAMF(Access and Mobility Management Function:アクセス・位置管理)に優先制御の機構を実装した(図表1)。UEがアクセスを試みる際の制御信号に含まれる情報(SUPI)によって端末を識別。WFQ(重み付き公平キューイング)という基本的なQoSの仕組みを使って、優先/非優先を振り分ける。「仮想化されているので、CPUのスレッドにそれぞれを割り当て、相互に干渉しないように独立処理をした」結果、輻輳状態において、優先端末の接続確立数は約4割増加。接続処理の安定化が認められた。

図表1 5Gモバイルコアのアーキテクチャと制御プレーンスライシングの概略

図表1 5Gモバイルコアのアーキテクチャと制御プレーンスライシングの概略

近年、LTEサービスで発生している障害は、HLR/HSS(加入者管理データベース)等のNFの輻輳が原因となっており、「これをすべてのNFでやる必要があるのではないか。そもそもリソース分離ができていれば、どこが混雑しているのかが一目でわかる」と中尾氏。障害発生箇所と原因特定に時間がかかっている昨今の状況を鑑みれば、メリットが期待できよう。

中尾氏は、「これはまだ第一歩。最も単純な手法で実装・検証してみた段階であり、優先制御のやり方もいろいろある。制御プレーンスライシングのコンセプトを示すことで、この分野の研究を深めていきたい」と話す。

SRv6をモバイル網に

カスタム機能の実装が可能なローカル5Gシステムが登場したことで、今後、同様の取り組みが広まる可能性がある。有効性が認められた技術をベンダーが採用してキャリア向けソリューションに実装したり、さらに3GPP標準化の場で議論されるケースも出てくるだろう。

ネットワーク強靭化に向けて、今後5Gへの実装が有望視される技術は現時点でも複数ある。最後に、注目される2つの技術を紹介しよう。

1つが、Segment Routing IPv6(SRv6)をモバイルネットワークのユーザープレーン(Mobile User Plane:MUP)に適用する「SRv6 MUP」だ。2019年から世界に先駆けて自社ネットワークにSRv6を導入し、商用展開してきたソフトバンクはこの9月、SRv6 MUPの早期商用導入に向けた検証を進めると発表した。

SRは、パケットに付与されるラベル情報を基に、各ノードが適切な経路を選択しながら伝送する仕組みだ。ルーティング処理を効率化し、ネットワーク設計と運用をシンプル化できる。シスコシステムズの秋山氏によれば、モバイルネットワークでも「フロントホールやバックホール、モバイルコアで幅広く使われている。これから新しいネットワークを作る場合には、SR以外の選択肢はないような状況だ」。

このSRは既存のMPLS網に導入することも可能(SR-MPLS)だが、IPv6ヘッダに様々な情報を埋め込むことが可能なSRv6をMUPに適用すれば、5Gネットワークに新たな機能を実装できる可能性が高まる。ソフトバンクはこれを、ネットワークスライシングやMECをより低コストかつ柔軟に運用するために用いる計画だ。

柔軟なトラフィック制御が可能になり、拡張性が向上するほか、運用の煩雑さも解消できる。5G設備の増設・交換を行うことなく、よりシンプルにネットワークスライスを利用できるようになり、また制御信号のやり取りも簡略化(図表2)。耐障害性や運用効率の向上が期待できよう。

図表2 SRv6 MUPを用いた連携自動化の構成イメージ

図表2 SRv6 MUPを用いた連携自動化の構成イメージ

ソフトバンクのこの取り組みには、Arrcusやインテル、VMware等が協力しており、SRv6の世界初の商用化を支援した実績を基に、同技術の標準化も推進していくとしている。

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