連載最終回は、Lyncを活用したカスタムアプリケーションの開発がテーマである。(連載目次はこちら)
本連載で繰り返し述べてきた通り、Lyncの大きな魅力の1つは、Outlookをはじめとするマイクロソフト製品との高度な連携が実現されている点にある。例えばLyncが導入された環境では、Outlookのメールの宛先欄などにあるユーザー名の横にプレゼンス情報が表示され、その人が現在、連絡可能な状態にあるかどうかが一目で分かる。さらにOutlookから直接、IMやVoIPなどによるコミュニケーションをスタートさせることが可能だ。
Outlookの中にLyncの機能が組み込まれることで、より生産性の高いコミュニケーション環境が創出されるわけだが、実はLyncの機能が組み込めるのはOfficeなどのマイクロソフト製品に限らない。ユーザーやSIer自身の手で、Lyncの機能を活用したカスタムアプリケーションを開発することもできるのだ。しかも、意外なほど簡単に、である。以前のOCS(Office Communications Server)と比べ、こうしたカスタマイズが非常に容易に行えるなったことはLyncの重要な特徴の1つに挙げられる。
それでは一体どのようなカスタムアプリケーションの開発が可能なのか。日本マイクロソフトによるサンプルを例に見ていくことにしよう。
Lyncに関する専門知識は不要!
まず紹介するのは、外出先や帰社時間などの情報を部署内で共有するための「行き先掲示板」をLyncで実現した例だ。
アナログのホワイトボードでは「A社 11時戻り」など、いちいち行き先や帰社予定時間などを書き込む必要があるが、Lync版行き先掲示板の場合はほぼ全自動だ。プレゼンス情報は当然のこと、Outlookの予定表との連携により、行き先や参加中の会議タイトルなども自動表示できる。かなり便利そうだ。
Lyncを利用して作成した行き先掲示板。Silverlightのコンポーネントとして提供されているLyncクライアントのパーツを使うことで、こうしたカスタムアプリが非常に簡単に作成できる |
SharePointベースで作られたこの行き先掲示板は、Silverlightのコンポーネントとして提供されるLyncクライアントのパーツを貼り付けるだけで基本的に出来ている。開発にあたって、Lync部分のふるまいなどをコーディングする必要は一切ないし、Lyncに関する知識も必要ない。実際、開発を担当したのは、Lyncの知識がまったくないプログラマーだという。Visual Studio、つまり汎用的なC言語とSilverlight、SharePointに関するスキルのみで、この行き先掲示板は開発されている。
以前のOCSにおいても、OCSの機能を組み込んだカスタムアプリケーションの開発は可能だった。しかし、フロント側のユーザーインターフェースに関わる部分がAPIとして提供されていなかったため、プレゼンスの表示方法やマウスホバー時の挙動などもコーディングする必要があり、「開発が容易」とは言えなかった。ところが、Lyncではこうしたフロント側のコンポーネントも提供されるため、裏側のロジックを組むだけで、Lyncの機能を組み込んだビジネスアプリケーションを開発できる。Lyncになって、カスタムアプリケーションの開発ハードルは大幅に下がったのである。