「紙とPCの束縛」を解く
3つ目は、中古車買取時に使う検査・査定用アプリだ。
店舗で、あるいは営業マンが顧客の自宅へ出張してクルマの状態を調べ、本部に車両情報を送り、膨大なデータに基づいて適正な買取価格を算出する。従来は紙とFAX、出張時はノートPCで行っていたこの業務をすべてiPadに置き換える。
紙に情報を書き込み、本部にFAX送信して行っていた検査・査定業務もiPadに移行する。現場の業務効率だけでなく、用紙の印刷・配布、保管に要するコストの削減効果も大きい |
車種、傷の状態やオプション装備などの情報を入力して本部に送信。算出した価格を再度iPadで受信して顧客に提示する。地下駐車場で査定を行うといったケースも多々あるため、アプリは通信できない環境でもローカルで動作するように設計している(入力後に電波が届く場所に移動してデータを送受信する)。
ここまでの業務の流れを整理した図表を見ると、iPadの効果がよくわかる。椛田氏によれば、受付票を改訂して印刷、配布するだけでも年間1千数百万円のコストが掛かっているという。これに加え、データ入力や用紙保管などの時間・経費も大きく削減できる。
図表 来店客受付から査定までの業務の流れ(クリックで拡大) |
4つ目は画像販売アプリだ。実際の車両ではなく、写真や車輌情報をPC等に表示して販売する手法はガリバーの代名詞であり、iPadの特徴が最も活かせるシーンと言える。
写真のように、フリック操作で軽快にクルマの画像を切り替えたり、ピンチ操作で拡大縮小をしながら目的のクルマが選べる。「マウスで操作したり、PC画面の切り替えが遅いとお客様はストレスを感じる。iPadなら、楽しみながら選んでいただける」と椛田氏は期待を込める。
テスト導入での評判も、「PCと比べて長時間説明しても疲れない」と良好だ。ノートPCと異なりすぐに起動できて、バッテリーの持ちが良いのも出張販売には最適。店舗でも、これまではPCまで来店客を誘導する必要があったが、iPadを持って移動すればすぐにクルマが提案できる。
さらにもう1つ、フィールド営業向けの顧客管理用アプリも開発中だ。地図やナビと連動して営業業務を支援するものを用意している。
次のターゲットは社内業務
かつて情報システム部門に所属していた椛田氏は、以前からモバイル端末の活用を模索してきたという。ハンディターミナルやタブレットPCの導入を検討したが、当時の端末価格は高く、ペーパーレスのみを目的としていたため、コストとの折り合いがつかず断念した。
変化は2008年から起こった。中国事業立ち上げの際に上海に1年あまり滞在。これが、ワークスタイルを考え直すきっかけになったと同氏は振り返る。東京ほどには便利でない交通環境に、「会社に行くことの価値は何だろうかと考えた」。2009年の帰国後、これがクラウドプロジェクトへとつながっていく。
業務システムをクラウド化し、場所を問わずに働ける環境作りを進めてきたおかげで、iPadをいち早く取り込むことができた。
現在は直営店舗と営業マンが主体だが、PCに依存している本社社員の業務にも積極的にiPadを適用し、ワークスタイル変革をさらに推し進めていく考えだ。試験配布した社員には、「制限は一切設けず、自由にiPadの使い道を考えてもらっている」という。iPadが活躍する場はまだまだ広がりそうだ。