災害対策で進むIoT活用 センサーとLPWAで「防災」を実現

毎年日本のどこかで発生する自然災害。「必ず起きる」との前提の下で、備えることが不可欠だ。IoT、LPWAの活用で、従来よりも容易な対策が可能となっている。

「災害大国」といわれる日本は、有史以来、幾度となく自然災害に見舞われてきた。

この10年を振り返っても、東日本大震災をはじめとする大規模地震、噴火、台風などが全国各地で発生し、そのたびに多くの人命が失われた。

どれほど科学が進歩しても、自然災害の発生を未然に防ぐことはできない。しかし、最近はIoTやLPWAの活用により、早期に異変を捉え、対策を取ることが可能となっている。

電池式で簡単に設置可能にIoTによる予兆検知の中で、最も「旬」といえるのが水位の計測だ。

その背景を簡単に説明しておこう。

近年、地球温暖化の影響もあり、「想定外」「想定を上回る規模」の台風や豪雨によって河川が氾濫、周辺に大規模な被害をもたらす災害が毎年各地で起きている。

記憶に新しいところでは、今年7月、熊本県南部を襲った集中豪雨により球磨川の堤防が決壊し、20人以上が亡くなる大惨事となった。

これまで河川の水位計測は、測定データを専用回線などで市役所内の監視室に送信し、集中管理するテレメータシステムによって行われてきた。

このテレメータシステムは設備が大掛かりで、1基当たりの設置費用が数千万円と多額のコストがかかるため、一級河川(国土の保全または国民経済上、特に重要な水系として河川法で指定された河川)など一部での設置にとどまっていた。

ところが、2016年8月の台風10号や2017年7月の九州北部豪雨では、水位計の設置されていない中小河川が氾濫し、多数の死者を出す事態となった。

これを受けて、国土交通省(国交省)では、LTE-Cat.1などの汎用技術を採用し、従来型の1/10~1/100にコストを抑えた「危機管理型水位計」の仕様を策定、2019年までに約1万1000台を設置した。

ただ、河川は全国に3万以上もあり、危機管理型水位計ですべてをカバーすることは難しい。危機管理型水位計の設置には、国交省への申請作業も必要になる。そうした中で、台風や豪雨の被害を受けた自治体や防災意識の高い自治体では、予算を確保し自前で防災水位計を設置しようとする動きが見られる。

また、最近の傾向として、豪雨や震災時にため池が決壊して貯水が流れ出し、周辺に被害をもたらす災害が増えている。

農業用水を確保する目的から貯水し取水できるよう人工的に造成されたため池は、周辺に大きな河川のない地域や取水が安定しない地域を中心に設置されており、その数は全国で約21万カ所にのぼる。

このうち決壊した場合の浸水区域に家屋や公共施設などがあり、人的被害を及ぼす恐れのある「防災重点ため池」は約1万1000カ所とされていたが、2018年の西日本豪雨の後に農林水産省が新たな基準を設けて再選定した結果、6万3000カ所余りまで一気に増えた。

そこで、河川やため池に簡単に導入・計測できるIoT水位計に対するニーズが高まっている。

例えばアイ・オー・データ機器の「水位監視用電池式IoT通信システム」は、通信制御装置やアンテナ、電池ユニットが1つの筐体に収まっており、そのサイズは約28×18×7.5cmとコンパクトだ。従来の防災水位計や危機管理型水位計に用いられている太陽電池のように専用ポールの必要がなく、容易に設置することができ、工事費用も抑えられるという。

アイ・オー・データ機器の「水位監視用電池式IoT通信システム」

アイ・オー・データ機器の「水位監視用電池式IoT通信システム」は約28×18×7.5cmと小型化を実現している

同システムのベースとなっているのが、マクセルの「IoT電源システム」だ。

IoT電源システムはリチウム電池を用いることで、太陽電池と比べて小型化、省電力化、電池交換周期の長期化を実現している。

また、LTE-Cat.1、ZETA、ELTRES、Sigfoxという4つのLPWA規格に対応しており、各規格の通信ソフトウェアを本体に内蔵する(図表)。導入側は、動作確認済みの通信機の中から用途に合わせて選択すれば、ソフトウェアの開発が不要で利用することができる。

図表 LPWAソフトウェアの概要

図表 LPWAソフトウェアの概要

水位監視用電池式IoT通信システムは、ソニーの「ELTRES」とZiFiSenseの「ZETA」を採用している。「ELTRESの見通し100km以上の長距離伝送やZETAの中継器を使ったメッシュネットワークは、河川やため池のある僻地や山間部で強みを発揮する」とアイ・オー・データ 市場開拓部 パートナー開拓課 課長代理の土井健司氏は話す。

同システムは、NECネッツエスアイの「Symphonict(シンフォニクト)プラットフォーム」との連携により、水位データを可視化することも可能だ。

センサーからSymphonictに集まったデータを基に水位の変化がグラフ表示され、スマートフォンなどから確認することができる。あらかじめ設定した警戒水位や危険水位に近付いた場合には管理者にメールで通知も届くため、いつでもどこでも、また管理者の経験の有無に関係なく状況を把握し、的確な判断を下すことが可能だという。

月刊テレコミュニケーション2020年11月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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