光定額制は維持できるか?――「年率1.5倍増」トラフィックとの戦い

ここ数年、年率約1.5倍で急増しているブロードバンドトラフィック。一部では、光インターネット定額制の限界を指摘する声さえ出始めている。日本のネットワークは急増するトラフィックを支えきれるのか。

夜になるとフレッツが遅い――。

NTT東日本/西日本のフレッツ光を使う一部のユーザーから、そんな声が上がり始めた。「動画が止まるので、家の中でもWi-Fiを切ってLTEで見ている」という声も。モバイル回線に比べて高速で安定しているという光回線のイメージは崩れつつある。

要因はトラフィックの増大だ。

今や家の中でも、1人1台ずつスマートフォンやタブレットを使っている。複数台の端末が常時インターネットにつながっている状態だ。さらにテレビ、AIスピーカー、ゲーム機など光回線につながるデバイスは増えるばかりだ。

利用するコンテンツもますます大容量化している。数人の家族が同時に、それぞれ別のスクリーンで動画を観る光景も珍しくない。かつて、一家に1台のPCを立ち上げて初めてトラフィックが発生していた頃とは、インターネットの使い方は様変わりしてしまった。

当然、トラフィックは跳ね上がる。

図表1は、総務省の推計による国内ブロードバンド契約者(FTTH、CATV等)の総ダウンロードトラフィックの推移を示したものだ。2014年以降は年率1.4~1.6倍で増加し、2017年5月時点で総トラフィックは9.559Tbpsに達した。実に3年前の3.3倍に相当する量だ。加入者1人当たりのトラフィックも同様に、年1.5倍程度のペースで増加している。

図表1 ブロードバンド契約者(FTTH、DSL、CATV、FWA)の総トラフィック(推定)
図表1 ブロードバンド契約者(FTTH、DSL、CATV、FWA)の総トラフィック(推定)

どこが“詰まって”いるのかこの奔流を支えるべく、通信事業者やISP(インターネット接続事業者)はネットワーク設備の増強を続けている。にもかかわらずフレッツ光の速度低下が発生しているのには様々な要因があるが、その1つとしてISPや総務省から提起されているのがNTT東西のNGNとISPのネットワークをつなぐ「網終端装置(NTE)」だ。トラフィックがここで詰まり、輻輳を引き起こしているのである(図表2)。

図表2 インターネット接続のイメージ
図表2 インターネット接続のイメージ

フレッツ光のユーザーは図表2のように、NGNとISP網を経由してインターネットにアクセスする。この接続方法にはPPPoEとIPoEの2種類があり、速度低下が起こっているのはPPPoEだ。IPoEはまだ加入者が少なく、中継設備「ゲートウェイルータ(GWR)」の輻輳は発生していない。

さて、問題はNTEの「増設基準」にある。一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)の副会長を務める立石聡明氏は、「増設基準が現状に見合わなくなっている」と話す。

NGNとISP網はそれぞれ、NTT東西とISPが独自に増強を行っているが、両者をつなぐNTEはインターフェース部分をISPが、それ以外をNTT東西が費用負担しており、かつ増設にはルールが設けられている。インターフェース部分の増設には、NTT東西が設けた基準をクリアしなければならないのだ(図表3)。

図表3 IPPPoEとIPoE
図表3 IPPPoEとIPoE

この基準は現状「セッション数」をベースとしている。

簡単に言えば、加入者が一定数増えなければ増設はできない。そのため、加入者当たりのトラフィックが急増している現状では容量が追いつかなくなっているのだ。これを「トラフィックを基準に増設できるようにすれば、1人当たりに十分な帯域が確保できるようになる」(立石氏)。

月刊テレコミュニケーション2018年3月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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