――新型コロナウイルス感染拡大の防止へテレワークが奨励されるなか、多くの企業が対応に苦慮しています。制度面の課題もさることながら、ネットワーク環境の整備も追いついていない状況です。
池田 コロナ禍の前から、ガートナーは「クラウド中心のネットワーキング」へ変えようというメッセージを打ち出していました。簡単に言えば、MPLSの閉域網とインターネットをハイブリッド型で柔軟に使おうということです。
ネットワークアーキテクチャを大胆に変えることになりますから、企業のIT/ネットワーク担当者には、「急には変えられません。徐々に移行しましょう」と話していました。でも、その余裕はなくなってしまいました。
ほぼ全ての従業員を一気に在宅勤務にしなければならなくなり、準備段階を飛び越えて、いきなり実装段階になっています。
「この経験を活かすしかない」――ネットワークへの依存度は高まるばかりですね。
池田 ビジネスの大部分が、まさにネットワーク頼みになっています。
数十年前なら、人の移動がここまで制限されると何もできなかったはず。しかし、今は日常通りに情報を得ることもコミュニケーションすることも可能です。どころか、Web会議等を駆使して以前よりも忙しく、効率的に仕事をしている人も少なくありません。
通信できなければ何もできない状況を体験したことで、企業ネットワークの変革は加速するでしょう。新型コロナがいつ収束するのかは見えませんし、たとえ収束しても同じような状況はまた起こりえます。
企業は今回のコロナ禍で、今後目指すべき方向性の最も極端な状況を体験しているわけです。これに対応できるネットワークを作っておけば、大抵のことには動じなくなります。この経験は活かすしかありません。
ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門
ITインフラストラクチャ&セキュリティ バイスプレジデントの池田武史氏
(写真は2019年7月に撮影。取材はWebexによるオンラインで実施)
――ネットワークの作り方をどう変えていけばいいのですか。
池田 変革を促す要因は、コロナ以前から複数ありました。
パブリッククラウドへの依存度が高まり、MPLSとインターネットの両方にトラフィックが湧いてきています。
従業員は外出先や自宅からクラウドを利用するので、アプリも利用者も閉域網の外にいるのが当たり前になりました。加えて、パートナーや顧客もネットワークにつながり、さらに混沌とした状況になっています。現下は、これが極端に進行しています。
もう1つ、企業が使うITシステムの目的も多様化しました。オフィスで働く従業員だけでなく、工場や店舗向け、あるいはビル管理システムのようなIoT用途と、様々な目的のITシステムが生まれ、各々に適したネットワークが必要になりました。
こうした状況に1つの大きなネットワークで対応するのは、やはり筋が悪い。複数のネットワークを組み合わせて使うという方向へ考え方を変えなければなりません。閉域網の中に全部詰め込むという発想を捨てて、閉域網とインターネットにまたがる論理的なネットワークを作るのです。