モバイル業界人にとっては、SIMカードでよく知られるジェムアルト。他にはクレジットカードや電子パスポート、暗号化と鍵管理など、デジタルIDとセキュリティ関連のソリューションを提供している。
そのジェムアルトの買収を4月に完了したタレスジャパンが5月21日、セキュリティ部門に関する事業戦略説明会を開催した。
タレスの会社概要。デジタルID&セキュリティのほか、防衛、航空、宇宙、交通が主要事業
「日本に進出して49年になるが、これまでは防衛関連のビジネスが中心だった。ジェムアルトを買収した今後は、デジタルID&セキュリティをメインビジネスとして展開する予定だ」。こう語ったのは、タレスジャパン 代表取締役社長のシリル・デュポン氏。
タレスジャパンは従来から暗号化などのセキュリティソリューションを提供しているが、ジェムアルトのポートフォリオが加わったことで、その比重は大きく高まるという。2018年の受注額は全体の5%だったが、2019年は50%に拡大する見込みだ。
タレスジャパン 代表取締役社長 シリル・デュポン氏
クラウド化で分断されるデータセキュリティタレスグループにおいて、旧ジェムアルトはDigital Identity & Security(DIS)部門に属す。そのDISは5つのビジネス領域からなるが、今回の説明会ではそのうちの1領域である「クラウドプロテクション&ライセンシング(CPL)」について、旧ジェムアルトの日本代表を務めていた中村久春氏が具体的な戦略を語った。
タレスグループ(ジェムアルト) Digital Identity & Security クラウドプロテクション&ライセンシング
Authentication & Encryption事業本部 本部長 中村久春氏
CPLのポートフォリオは、(1)暗号化、(2)鍵管理及び保護、(3)ID及びアクセス管理の大きく3つ。「デジタルアイデンティティとデータ保護はセキュリティの両輪だが、この両方を持っている会社はそんなに多くない」と中村氏はアピールした。
CPLのソリューションポートフォリオ
では、その強みを今後どこに広げていくのか。中村氏が挙げたキーワードが「クラウド」だ。
「我々のビジネスは従来オンプレミス。ハードウェアを販売することが多かった。しかし、クラウドへのシフトがどんどん進んでいる」ため、クラウド向けのソリューションに注力しているという。
その具体例が、暗号化鍵を管理するHSM(Hardware Security Module)のバーチャルアプライアンス版であるDSM(Data Security Manager)によって実現する「Data Protection on Demand(DPoD)」だ。「クラウドで完結するソリューションを皆さん求められている」
また、マルチクラウド/ハイブリッドクラウド化が進むなか、暗号化鍵の統合管理の必要性も高まっているという。「今は必ずハイブリッドであり、データセキュリティは分断化されているのが今日の状況。クラウドにデータを出した瞬間、どこまでセキュリティはカバーされているのか、その鍵はどう管理されているのか、という課題に直面する」からだ。
現状は「AWSの鍵はAWS」「Azureの鍵はAzure」と分断された状態で管理しているケースが多いが、そこで「DSMを使って自分でクラウドの鍵も管理するBYOK(Bring Your Own Key)のお客様も増えている」。中村氏はこう話したうえで、「暗号化は新生タレスの大きなポイント」と強調した。
新生タレスのデジタルID&セキュリティ戦略
さらに中村氏は以下のスライドを示し、「GDPRや働き方改革など、これらのキーワードが出てきたとき、我々は役に立てる」と述べた。
タレスが貢献できるというセキュリティの課題
「2019年 タレス データ脅威レポート 日本市場版」によれば、GDPR等のデータ規制への対処手段として、54%の企業が暗号化を挙げている。その一方、実際の暗号化導入率はまだ低く、多くの成長余地があるという。
また、働き方改革向けには、シングルサインオンやワンタイムパスワード、コンテキスト認証などのソリューションを提供しており、「セキュリティと利便性のバランスをうまくとることができる」と中村氏は説明した。