「ネットワークの進化の方向性が変わる」――。通信業界に関わる人の多くがそう口にする。
まず、役割が変わる。これまでのネットワークは相手とつながり、情報を獲得するためのものだった。だが、「これからは物理的なモノを動かす役割を担う」と話すのは、NTT未来ねっと研究所所長の川村龍太郎氏だ。従来とは「役割が決定的に違う。それに伴って新しい要件が出てくる」。
NTT未来ねっと研究所 所長 川村龍太郎氏
ノキア IP/OpticalネットワークIPルーティング本部長の鹿志村康生氏も、技術進化を促す「ドライバーが変わる。これまでにない要求が出てくる」と話す。
代表例は低遅延化だ。鹿志村氏によれば、自動運転で許容されるネットワークの遅延は最大2ms(ミリ秒)。電力グリッド制御では1msという。ちなみに、人間の前庭動眼反射(姿勢保持のための反射)は7ms。要件がいかに厳しいかがわかる。
ノキア IP/Opticalネットワーク IPルーティング本部長 鹿志村康生氏
もちろん帯域に対する要求も、これまでとは桁違いだ。シスコシステムズの年次調査「Cisco VNI Global Data Traffic Forecast」によると、モバイルトラフィックは年率53%増で推移し、2016年の6.2EB(エクサバイト)から2020年には30.6Eを超える見込みだ。
このように過酷かつ多様な要件に応えるには、ネットワークアーキテクチャを大きく変える必要がある。
ネットワークを変える2つの潮流新たな進化の方向性の1つが、「エッジコンピューティング」である。
ユーザーに近いところでコンピューティング処理を行うもので、クラウドの処理を代替したり、受け取ったデータを一次処理してからクラウドに送る等の補完的な役割を担う。
現状では、工場等の施設内にエッジサーバーを配置して特定用途に使う形態が主流だ。しかし、今後は、汎用的に使える“エッジコンピューティング基盤”をキャリア網内に配置し、複数のサービスで共用する形態も広がる可能性がある。エッジに小型のクラウドが分散するイメージだ。
2つめの方向性は、ネットワークの“使わせ方”が変化することだ。
キャリア網はこれまで静的だった。サービスごとにネットワークを作り、基本的にはそれを何年も使う。
だが、それではこれからの時代に対応できない。「1つのネットワークを資源として、複数のサービスに使わせる消費型のモデルになる」と鹿志村氏は話す。これを実現するのが、サービスごとに仮想スライスを作って提供する「ネットワークスライシング」だ。
こうした運用を実現するために重要なのが、インテリジェンスを備えたネットワークである。刻々と変わるネットワークの状態を把握しながら、リソース配分や経路制御を動的に行って、サービス要件に応えるスライスを動的に作りユーザーに提供する。さらに、エッジコンピューティングの機能をスライスに組み込んで提供するといった運用も必要になるだろう。これは、人間の手作業では不可能だ。「運用の自動化が必須」とNECのテレコムキャリアビジネスユニット SDN/NFVソリューション事業部で主席技師長を務める村上紅氏は語る。
NEC テレコムキャリアビジネスユニット SDN/NFVソリューション事業部 主席技師長 村上紅氏
では、この2つの新技術はどのように実現され、ネットワークの使い方はどう変わるのかを見ていこう。