ノキア・ベル研究所プレジデント兼コーポレートチーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)のマーカス・ウェルドン氏は、2016年5月26日に開催された報道関係者向けの説明会で、5G時代のネットワークビジョンを解説した。
ベル研究所は、米国最大の電話会社であった旧AT&T(ベルシステムズ)の研究部門として1925年に発足。通信分野にとどまらない数多くの革新的な研究を行ってきた。現在は2016年1月のノキアによる親会社アルカテル・ルーセントの買収により、ノキアの傘下に入っている。
ウェルドン氏は、昨年10月にネットワークの将来展望や技術的なブレークスルーを解説した『The Future X Network: A Bell Labs Perspective(未来×ネットワーク、ベル研究所の展望)』を出版しており、説明会ではその内容を踏まえて、ベル研究所が描く5Gのビジョンが紹介された。
自動化時代を支えるネットワークが5Gウェルドン氏はまず、世界は17世紀に始まった金融革命、18~20世紀の第1次、第2次産業革命、1940年からの科学技術革命、1985年以降の情報革命を経て、新たな技術革命の時代に入りつつあるという見方を示した。
これは「モノからの情報革命」と言えるもの。数兆ものモノがネットワークにつながり、ヒトを介さずに自動的に様々な処理が行われるようになるが、この変革を支える重要なファクターが5Gだという。
そして、こうした新時代のネットワークは、コンシューマーではなく、多様な企業のニーズを満たすことにより、新たなビジネスを生み出していくと見る。
「企業には自動化による多くのビジネスチャンス、そして資金が眠っている。新たなネットワークは企業をターゲットにして構築する必要がある」と話した。消費者は企業が提供するサービス・製品を通じて、そのメリットを享受することになる。
こうした新時代のネットワークに求められる条件として、まずウェルドン氏が挙げたのが「低遅延化」である。
例えばビデオ会議の場合、エンド・ツー・エンドで遅延を100ms程度に抑えられれば違和感なく通信できる。だが今後、4K品質でビデオ会議を行う時代が来ると、映像の処理時間が増大するため、ネットワークに許される遅延時間は非常にわずかになってしまうという。
さらに要件が厳しいのが、VR(仮想現実)の分野だ。人間が頭の向きに自動的に目の位置を合わせる前方動体反射(VAR)に必要な7msを超える遅延があると違和感が生じるため、ネットワーク部分での遅延は1ms程度に抑える必要があるという。また、自動運転でも1ms以下の低遅延化が必要だ。
ネットワークの低遅延化・広帯域化で実現する新サービス・アプリケーション
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もう1つ重要な条件としてウェルドン氏が挙げたのが広帯域化だ。例えばVRでは、各々のユーザーに360度の映像を送る必要があるため、通常のビデオ伝送の30倍、0.4~0.7Gbpsの帯域が必要となる。
このネットワークの低遅延化と広帯域化によって、①高精彩映像、②システムコントロール、③VR/AR(拡張現実)など新たな領域のサービス・アプリケーションが実現されるという。