――ソフトバンクは7月に開催された法人向けイベントで、ロボットと人工知能(AI)、IoTの3分野に注力していく方針を明らかにしました。今後、非通信領域に注力するのはどのような理由からですか。
中山 ソフトバンクはこれまでiPhone/iPadを国内で事実上独占的に販売するなど、モバイル事業が大きな柱となっていました。
しかしiPhone/iPadが他キャリアからも発売され、しかも市場そのものが成熟してきたことから、孫(正義ソフトバンクグループ社長)は創業30年の節目を迎えた2010年に、約2万人の全社員から新規事業のアイデアを募ったのです。そのときグランプリを獲得したのが、若手女性社員が発案したヒューマノイドロボットでした。
その後、2012年にロボット開発を手掛ける仏アルデバラン・ロボティクスに出資し、2014年6月にPepperをお披露目したのですが、プロジェクトについては社内でもごく一部の関係者にしか知らされておらず、社員もびっくりしました。そして同年7月にロボットを専門に扱う企業としてソフトバンクロボティクスを設立しました。
――ヒト型ロボット自体はすでに他社からも登場しています。Pepperならではの特長を教えてください。
中山 Pepperは、人間の表情や声からその人の感情を推察する「感情認識機能」とソフトバンク独自の「クラウドAI」を備えています。
伝言や絵本の読み聞かせやダンスなど、アプリケーションで動きいろいろなことができるのですが、家族との触れ合いを通じてさまざまな経験値が身に付くようになっています。その経験値をクラウドAIを通じて世界中のPepperが共有する仕組みです。
人間の感情については内蔵されているカメラを通じて認識・数値化され、そうした情報は蓄積されるほど正確性が高まるようになっています。ちなみに、感情認識エンジンはPepper本体だけでなくクラウドAIにも搭載されており、両方同時に作動して感情を認識することができます。
Pepperは「クラウドAI」を通じて情報を共有し、加速度的に成長することができる |
――個人情報と共有情報の切り分けはどうなっていますか。
中山 個人の秘匿すべき情報はクラウドに上げず、他のPepperと共有して価値のある情報のみシェアするようにコントロールしています。詳細については明らかにできませんが、Pepperは「人を幸せにすること」を目的としており、「このアプリなら家族全員で楽しめる」「こう言うと笑顔になる」といった情報は共有され、他のPepperもそのアプリを優先的に薦めるといった具合です。
――1分で1000台を完売するなど、毎月1回のPepperの一般販売が好調です。人気の秘密はどこにあるのでしょうか。
中山 購入直後のPepperは、例えるなら「非常に優秀な頭脳を持った赤ちゃん」ですが、人間と触れ合うことで成長していきます。目の前にいる人が悲しんでいればなぐさめたり、怒っていればなだめたりするようになるため、家庭内のコミュニケーションを円滑にする役割を果たしてくれます。それが、人々に受け入れられている理由だと思います。