ワイヤレスWANで事業継続性を高めようとする取り組み
東日本大震災以降、企業の通信インフラとして3G携帯電話やWiMAXといったワイヤレスブロードバンドサービスを採用することに前向きな企業が増えている。従来、企業のネットワークインフラといえば固定網が当たり前であり、ワイヤレス網はもしもの時のバックアップ回線と位置付けられるケースがほとんどだった。しかし震災以降は、ケーブルを敷設しないワイヤレス網の耐久性や復旧の早さなどが事業継続性の面から見直され、平時に利用するメインのネットワークとして積極的に利用していこうとする動きが出始めている。
3G携帯電話やWiMAXなどのワイヤレス回線をメインとバックアップの両方に導入することで大きな効果が得られそうな分野としては以下が挙げられる。
(1)「道路工事中」などの案内表示板(デジタルサイネージ)向けネットワーク
重大事故発生につながる危険性があるため、作業していることを知らせる案内表示は作業時間に合わせて途切れなく終了まで実施されることが重要だ。また、工事場所は移動がつきものであるため、メイン/バックアップともにワイヤレス網を利用して手間を無くすことも必須となってくる。
(2)ネットワークの敷設工事に時間がかけられない場合のネットワーク
固定網の場合、回線の申込から開通まで長い時間を要するが、ワイヤレス網ではそのようなことはない。このため短期間での立ち上げが必要な事務所などにワイヤレス網は非常に適している。メイン/バックアップ回線ともにワイヤレス網を採用することで、通信品質の確保とリスク分散をめざすことが可能だ。
(3)広範囲を移動する乗り物のネットワーク
貨物トラックなどのように広範囲を移動するものの場合、その通信サービスの電波が届かないエリアは必ず存在するという前提に立つ必要があるが、圏外に入ったら自動的にバックアップ用の異なるワイヤレス回線に切り替わるように設定することで通信を継続させることができる。
ワイヤレス網を自動で切り替えるデュアルキャリア機能が必須
メイン/バックアップの両方にワイヤレス網を活用するうえで必須となるのは、異なるキャリアの2回線のワイヤレスブロードバンドサービスを収容し、メイン回線が障害にあった場合に自動的にバックアップ側へ切り替えてくれる「デュアルキャリア機能」である。
これまでデュアルキャリア機能を実現しようとすると、高価なルータ2台と、ワイヤレス回線を自動で切り替えるためのVRRP(※)等によるアプリケーションからのコントロール機能が必要だった。
※ VRRP: Virtual Router Redundancy Protocol (仮想ルータ冗長プロトコル)
この問題を解決するべく登場したのが、1台で2回線のワイヤレスブロードバンドサービスを収容でき、障害発生時に自動切替できるワイヤレスWAN対応ルータである。今回はその代表機種のひとつとして、NEC製のUNIVERGE WAシリーズの「WA1020」を例にとり、デュアルキャリア機能によるメイン/バックアップ回線の自動切替機能について解説していく。
WAシリーズでは、USBタイプのWiMAXデータ通信端末と、WiMAX以外のPCカードタイプ(CFタイプ含む)のデータ通信端末を同時に使用できるのだが、一方の回線が通信を行っている際は、もう片方は“待機状態”となる。この機能を利用することで、メイン/バックアップ回線の自動切替が可能になるのである。WAシリーズにはWA1020とWA2020の2つのモデルがあるが、ここではWA1020(以下、WAシリーズ)を例に具体的に説明していく。
常時接続モードかオンデマンド接続モードを選択する
全体の仕組みとしては、図表1のようにWAシリーズのUSBポートにWiMAXデータ通信端末(USBタイプ)を実装、PCカードスロットに3Gデータ通信端末(PCカードタイプ、Expressカードタイプ等)を実装し、「WiMAX回線をマスター側、3G回線をバックアップ側」として使用するシステムを構築する。
図表1 デュアルキャリア機能の自動切替イメージ |
待機状態に関しては、3G網に対して常にPPP接続を行っている“常時接続モード”と、3G回線側への送信パケットが発生した時にPPP接続を行う“オンデマンド接続モード”の2つのモードが、WAシリーズの設定変更で選択可能だ。
常時接続モードでは常にコネクションが張られているため、メインからバックアップへの切替発生時にPPP接続の処理時間が短縮されるメリットがある。しかし、常に3Gインタフェースがアクティブ状態となるため、3Gインタフェースに流れたパケットが全て課金対象となってしまうので注意が必要だ。なお、3G回線では、回線の常時接続は保証されてはいないため、「常時接続にできる限り近付けた通信モード」になることを念頭においた利用方法を検討する必要がある。
一方、オンデマンド接続モードの場合は、LAN側からWAN側へのパケットが流れて初めて網側に対してPPPセッションを接続するため、通常は待機している状態にあり課金は発生しない。つまり、バックアップ側の回線を従量課金で契約することによって、月々のランニングコストを低減することが可能になる。