――通信事業者は、トラフィック爆発を見据えた次世代インフラの構築と、新たなビジネスモデル作りという難しい課題に直面しています。
柿木 やはり、トラフィックの伸びに比例して収益が伸びるような構造になっていないという点が問題です。スマートフォンの急速な普及もあり、トラフィックはこれまでとは次元の違うスピードで伸びていきます。従来のアーキテクチャではペイしなくなるのは間違いありません。
――御社ではどのような解決策を提案しているのでしょうか。
柿木 これまで「通信キャリア向けの専用機」で実現していたインフラ構築に、オープンソース系の新しい技術を投入していくというのが、HPの戦略の1つです。例えば、当社はBigDataを効率的に処理・分析するデータウェアハウス(DWH)エンジン関連の技術に先行投資してきました。この分野では、Yahoo!等で利用されているHadoopや、Cassandraなどが注目されているように、オープンソースのコミュニティが技術を引っ張っています。
ですが、こうした技術をそのまま通信キャリアが利用する訳にはいきません。特に高いレベルを要求される日本のキャリアはなおさらです。そこで、我々がこれらを補完する製品を提供し、通信キャリアのサービスレベルに合うようインテグレーションします。これによって、オープンソースが技術革新を牽引する現在の流れを否定することなく、新しいアーキテクチャを次世代インフラの中に位置付けることができるようになります。
先ほどのDWHの例で言えば、HPは米大手キャリアを顧客にもつVerticaを買収しました。これを活用して新しいサービスインフラを構築する取り組みがすでに始まっています。
定額制の縛りから脱する
――これまでのように一律の定額制料金プランでユーザーを拡大していくモデルも早晩、限界を迎えそうです。
柿木 今後は、トラフィックのマネジメントが必須になるでしょう。ユーザーによって、あるいは使い方によって帯域をコントロールするとともに、より柔軟な料金プランを設定するための仕組みが不可欠です。これを実現するソリューションもHPは提供しています。エンドユーザーのサービス利用状況の分析やポリシー管理を行う「HP Subscriber Net work and Application Policy(HP SNAP)」です。
誰がどのような使い方をしているのかという詳細なデータを収集し分析することで、現在のような全員一律の定額プランではなく、よりパーソナルで柔軟な料金プランの提供が可能になります。
学生や主婦、シニア層にもスマートフォンが広がっていく今後は、例えば「月額1000円しか払えないけれどスマートフォンを使いたい」といったニーズにも対応する必要が出てきます。誰もが月額5000円を払えるわけではありません。通常時は低廉な料金でWebやメールのみ利用し、大容量の映像コンテンツは従量制で視聴する、といった使い方に適した料金プランを提供することは、ユーザーの要望も満たし、キャリアの収益構造の改善にもつながります。
そうしたtiered pricing(階層的料金)を実現する仕組みこそ、大きな差別化ポイントになるでしょう。“定額のみ”の世界から脱し、ビジネスモデルの再構築に向けた視野も開けるはずです。グローバルではすでにそうしたモデルを目指して動き始めている例があり、日本でも導入を決めていただいたお客様もいます。
――海外で実績のある技術や製品であっても、従来は国内に持ち込むのは難しかったと思います。
柿木 状況は大きく変わりました。IP化が進むに伴って、日本独自の仕様は徐々になくなってきています。
HPにはサーバー、ストレージ、ネットワーク、そしてソフトウェアのすべてを持っている強みがあります。3COMの買収によってシェア2位のネットワーク機器ベンダーとなり、ソフトウェアに関しても主に運用監視ソリューションの分野を強化してきました。世界中のお客様に使われている安くて実績のある製品を活用していただける状況になっています。
ただ、良い素材をたくさん持っているというだけではダメです。この強みをさらに活かすために、各素材を組み合わせて、より高い効果を出すための技術開発に注力しています。例えば先日、サーバーとストレージに特殊な機能を組み込んでアプリケーション単位での帯域・リソース保証を可能にする新技術を発表しました。今後は、ネットワーク機器とサーバーとの間でも同様のことが可能になるでしょう。このように、各素材の間で特別な仕掛けを作ることで、HPの強みを出していきます。